※ヒロインが着てるのは黒の膝丈ワンピース。
襟付きで鎖骨付近がシースルーで若干の透けがある。袖は七分丈くらい。サッシュベルトつけてる。一応魔女意識。
よくいる仮装ぽくない仮装みたいな感じと思ってもらえれば。


一昨年去年と六つ子に鉢合わせをしていたから時間をズラして家を出ようとするとまぁーたそこには六つ子が。でも六つ子は仮装してなくてあれ?と思う。
しかしまた、またしても六つ子に会ってしまった!何事も無かったかのように1度扉を閉じようとするとおそ松が割って手を入れてきてこじ開けてくる。
力で勝てる訳もなくて「な、なっ、なに…?」と去年のこともあったのでおどつきながら聞くとおそ松が小さく「トド松」と言い素早く目の前に移動してきたトド松にヒィッと声を漏らすと「はーいボディチェックしまーす」とかふざけたこと言ってくるから抵抗するも虚しく…。
「衣装問題ありません!」とトド松が言えば「よし!…さてお姉さん、今年はどちらへ行くんですか?」といつの間にか警察官の格好になった六つ子(1人は犬だけど)に囲まれる。

「や、えっと、と、友達の…うちに…?ハロウィン…パーティ………」

渋谷に行くなんて言ったら今年は阻止されるかもと思い咄嗟に嘘をつく。でもあながち間違ってはない!渋谷には行くけど街を練り歩かないし呑み屋をハシゴする予定なんだ。

「ほお〜? 友達の家でハロウィンパーティーするならわざわざ自宅で着替えなくても友人の家で着替えればいいんじゃない?」とチョロ松。いやっうるさ?!関係ないじゃん!!!じーーーーーーっと穴があくほど見つめられてとうとう俯く私。
も、もう!なんだってこんなに絡んでくるわけ?!誰か助けてよ〜と思ってると聞き覚えのある声がッ!

「あれぇ〜?クソニート達〜!!えみりちゃん家の前で何してんの〜?トリックオアトリート〜?」

そこには超絶可愛い服を着たトト子!うわ!え?!可愛い!何?!可愛い!!
トト子の声に六つ子は勢いよく方向転換して「トト子ちゃ〜ん!」「やば!可愛いね?!可愛すぎ!超可愛い!」「超絶可愛いよ!トト子〜ッ!」「ハロウィンサイコー!」「すげー似合ってる!!」「トト子ちゃん最高!」とチヤホヤチヤホヤ。
いや私だって声掛けたいんですが?!!?!と思ったけど六つ子が離れた!しめた!今のうちに!!

こっそり忍び足で気付かれないようにその場を離れようとするとカラ松に気付かれて「おい! 被疑者逃亡!!! 逃がすんじゃあない!」と声を張る!!
その声に六つ子目を光らせる!
私焦る!
トト子わけも分からずクエスチョンマークを浮かべる!
こっちへ走ってくる十四松(犬)!
早い!!!死ぬ!

「とっ、トト子!!今日六つ子お菓子色々持ってるんだって!もらっちゃいなよ!トト子のために沢山用意したって言ってたよ!イエーイ幸せだねトト子!あと超絶可愛いよ!愛してる!」

十四松(犬)から逃げながらそう叫ぶと目をキラキラ輝かせたトト子が「ほんと〜?!トリックオアトリート!お菓子くれなきゃどうなるか分かってるわよねクソニート共〜〜〜!!」とキャッキャするトト子の声に焦ったような六つ子の声。た、た、助かった…


そして今年も無事に渋ハロ満喫し〜〜〜〜…たかと思いきや飲み屋のはしごでべろんべろんに酔ってまともに歩けなくなる!
こ、こんなに呑む予定じゃなかったのに…!
眠いしだるいし真っ直ぐ歩けないしマッジでやべ〜と思いつつ終電迫ってるからヨタヨタと駅に向かう。
そんな中去年おそ松に言われたことを思い出して周りの様子伺いながら終電に乗り込む。
ほら見ろバカおそ松、だぁれも私のことなんか見てないんだよーん、と鼻でふふんと笑う。
地元まで少し距離があるからほんの少し寝てもいいよね…と仮眠をとる。
ガタン!と揺れて飛び起きると地元の駅をひとつ通り過ぎてて慌てて電車から降りる。1駅だけでよかったあ、と息を吐く。まだ足元はふらつくけど酔いは冷めてきたしこのまま夜風に当たってれば大丈夫でしょ。とぽてぽて歩いて帰る。
スマホを開くとトド松からすごい着信とLINEがきててさっきのこと怒ってんだな〜と。返事返すのが億劫になるくらい通知が溜まっててどうしたもんかな〜と思ってるとまた着信が。振動に驚いてうっかり切ってしまいこれ絶対明日怒られるやつだ…!と思うもかけ直す気力もないしこれ以上通知くるのも面倒だから電源を落とす。明日の私がしこたま怒られるさ。

1駅通り過ぎてしまったから地味に家まで距離があるし電灯はあるものの薄暗い道しかなくて気味悪いなあと思ってると1つ多い足跡が。
あれ?と思って1度立ち止まると足音も止まる。気のせいかなと思いまた歩き始めるとやっぱり足音が1つ多い。もう一度立ち止まりしゃがみこんでヒールの確認をするフリをして後ろをチラッと見るとそこには1人男性が立っていた。
まさかね〜と思い少し遠回りになるけど少し早歩きをして角を曲がるとその男も曲がって後をついてきたからこれヤバイ!!!!と思う。
えっいや嘘?まじ?私?私が?え?ヤバくない?どうしよう交番通りすぎちゃった。もっかい戻る?でもあともう少しあるけば家着くし。えっどうしようどうしよう!

酔いなんてすっかりさめてた。それでも覚束無い足元にイラつきを感じる。ひ、ヒール脱ぎたい!どんだけ角を曲がって立ち止まって早歩きをしてもついてくるのをやめない男にもイラつきを感じる。
いやもう諦めろよ!バカ! そこでハッとする。そうだトド松。トド松に電話しよう。家まで電話しながら帰ればいいじゃない!説教されるかもしれないけどそれが最善!電話し始めたらこの男もついてくるのやめるだろうし!
そう思ってカバンからスマホを取り出して電源を入れ直そうとするとガッと腕を掴まれる。その拍子に携帯を落としてしまう。まだ電源ついてない!顔を上げるとついてきていたと思われる男がニタリと笑っていた。
キッッショ!手を振り払おうとしてもビクともしない。おそ松に言われたことがフラッシュバックしてきた。ま、まさかまさかまさか!そんなまさか。私が。そんな、ねえ?どんどん顔を近づけてくる男、鼻息は荒いしお酒臭いし香水も臭い!ふ、ふざけんな!
勢いよく足を振り上げて股間を蹴りあげるとウッと呻いてしゃがみ込む。や、やった…! その隙に落とした携帯を拾い上げてバタバタと走り去る。
もうついてこないよね?くるわけないよね大丈夫だよね?時々後ろを振り返りながらスマホに電源を入れる。物陰に隠れてトド松に電話をかける。早く出て、早く出て…!!

「ちょっとえみり??!!?!?!何さっき電話切ってくれちゃってんの?!!?そのあと電源切るしさぁ!!!今どこ?!!?!何時だと思ってんの今?!!?」
「とっ、トド松?!あっ待って、さっきごめん、ちょっと、ちょっと聞いて!」
「いーから!!後で聞くからそんなの!今どこなの?!!?!」
「あのっ、赤塚、隣駅の!や、でもあと15分くらい歩いたら家着くっていうか、あの、」
「はァー?!何でそんなところにいるわけ?!!なーにしちゃってんの!! ねーちょっと兄さーんえみり隣駅いんだってー」

電話口から声が遠くなる。と、トド松!話聞いてよ!告げ口なんて後ででいいじゃん!

「ちょっとトド松ってば!ねえ!聞こえてる!?ちょっと迎えに来てほしいんだけどッ」

何度呼び掛けてもトド松は何番目か分からない兄とべちゃくちゃ喋ってる。ザワついてるからこれ多分みんな起きてんだな?!誰か気付いてよ!!
必死にトド松に声を掛けていたものだから近付いてくる足音に気付かないでいた。

「トド松!迎えに来てほしいんだってば!ちょっとあとつけられてるぽくて!!ねえ!聞こえてんの?!」
「………………あー、もしもし?えみり?とりあえず十四松兄さんと迎え行くからそこいてよ」
「! 早く来て!駅前まで行くから来て!早く!」
「はァ?ちょっとそれが人に頼む態度!?」
「いいから早くってば!!つけられてるの!後!駅前の交番にいるから!早く来てね?!」
「え?ちょっと、何?つけられてるって何?ちょっとえみり、何言って」
「もう行くから!駅前の交番ね?!早く来てよね!!」
「ちょっと待ッ」

トド松の声が聞こえなくなった。いや、聞こえなくなったんじゃない、スマホを取り上げられた。
恐る恐る顔を上げるとそこにはさっき股間を蹴りあげて身動きが取れなくなっているはずの男が立っていた。私のスマホ、まだ、トド松の声が聞こえる。すごい怒鳴ってる。トド松。

ニタリと笑う男はそのまま通話終了ボタンを押して携帯をブン投げた。ちょっ、と。待って。や、やばい。やばいぞ。思わず口角が上がってしまう。にじり寄ってくる男に頭の中で警報がガンガンガンガン鳴り響く。
分かってる、逃げなくちゃやばい、わかってる、わかってる!カラン、と男が落ちていた缶に触れた瞬間その音で身体が弾かれたかのように動き出す。
やばいやばいやばいやばいやばい。無理無理。死ぬ!膝笑ってるし!足元覚束無い!ヒール無理!やばい!全力で走って走って走って走る。後ろなんか振り返ってる暇ない。駅まで走るんだ!瞬間髪の毛を引っ掴まれる。
あ、終わった。
羽交い締めされて物陰へと連れ込まれる。まじでやばい、終わった、終わった終わった終わった。待って、絶対に無理。こんな、こんなところで!つーかしつこいんだよこのクソ男!死ね!

壁に押し付けられてふうふうと息を吐く男に吐き気がした。

「ハロウィン帰りィ…?へへ…いいねェ…」
「キミも、こーゆーの期待してたんじゃないの…?ふふ…ひっ」
「さっきちんこ蹴られた時死ぬかと思っちゃった…」

ぶつくさ喋る男。うるさいうるさい耳元で喋るな!ゾワゾワと身の毛がよだつ。つーかそのまま死んでくれて良かったのに!クソ!

「あ、あ、諦めて、帰ろおって…思ったんだけど……追っ掛けてたら、楽しくなって…へへ…」

いーよね、?なんて、べろりと耳を舐め上げられてヒィッと声が出る。きっったねえ!
もう一度股間蹴ったら今度こそ…!そう思って足を上げようとするとそれを待っていたかのように微かに出来た隙間に足を捩じ込まれた。
ぐり、と膝が股に当たり身が強ばる。や、や、やばいって!やばい!何でこんな目にあってんの?!何で私?!無理無理無理!目頭がじんわりと熱くなってくる。
それを見たのか男は至極嬉しそうに笑い声を上げた。あーもう死ねよこいつマジで…!
あちこち体を触られて何十分経ったのかも分からない。いや、十分単位じゃなくて数分かもしれない。もっと経ってるかもしれない。触られるわ舐められるわもうきったないのなんの。グッと声を飲み込んでどうにか逃げ出す策を考える。
まだ私なら逃げられる、大丈夫。逃げるんだ。

するとガチャガチャと音が聞こえて閉じていた目をうっすらと開くとベルトを外してブツを出そうとしてるではないか!
いやっ待ってやばい!ほんとにやばい!流石にやばい!いやずっとやばいけど!これはシャレになんねえ!つーかわりと勢いよく蹴りあげたのに何で勃つの?!

「も、いッよな?へへ、いーよね」

いいわけねえだろばか!死ね短小!殺すぞ!そう罵声を浴びせようと思って口を開いてもカヒュ、と空気しか出てこない。
もう何でよ!ぶるぶると首を横に振っても男はブツをあてがってくるし唇をべろりと舐め上げてくる。きっったねーなほんと!マジで!!
ぐちゅ、嫌な音がした。

「ヘ… ヘッヘ…… こんなこと、もうされたくなかったらさ………そんな格好で…うろつかない方が…いいよ……ぐふ、へぇっへ…」
「やっ、も………!助け…ッ」
「誰もこねェーよ…ばーーーか!ふはッ」
「い゛ッ……!!!゛!」

わおーーーん!
遠吠え一つ。声の先を見るとそこには姿勢正しく座ってハッハッハッと息をする、犬。

「ハ…? なんだ…あの犬……?」
「……………じゅ、しまつ?」

ポロ、と声が盛れると男ははあ?と私に視線を戻そうとした。

「こんばんはァーーーーー何してるんだ? お兄さん」

聞き覚えのある声がしてそっちを向いたのと同時に拳が視界に入って目の前にいた男にクリーンヒット。
ドゴ、なんて鈍い音が鮮明に聞こえた。
勢いよく吹っ飛んでった男は呻き声を漏らしてガクガク震えていた。わおーんわおーんと声を上げる犬はやっぱり十四松で、男の上に乗っかって逃がさないようにしていた。
男を殴り飛ばした奴はボキボキと骨を鳴らして深く息を吐く。カラ松だ。やばい、まだ殴る気なんだ、きっと。目が完全に据わっている。これやばい、私の声聞こえないかもしれない!男の方へと歩み寄っていくカラ松を止めようと腕を掴む。

「ちょ、ちょっと待ってカラ松!も、もう大丈夫だよ。ありがとう、ごめんね、ありがとう。もう大丈夫だから」
「離せえみり」
「や、あの、大丈夫だからほんと。ね?もういいから。警察に突き出そう。それで済むから」
「警察はオレたちだろう?何を言ってるんだ。今から罪人を裁く。もう一度言うぞ、離せえみり」
「バッ、け、警察なわけないでしょ!それはコスプレ!違うからッ、ねえ!ダメだよカラ松!」
「…何度も言わせるな、しつこいぞ!」

掴んでいた手を勢いよく振り払われて体制を崩した私は転びそうになる。も、すんでの所で身体を受け止められる。

「いっ、ちまつ…?」
「………チョロ松兄さん、コイツ」

一松に抱えられパッと視線を辿ると息を切らしたチョロ松がそこにはいた。

「だっ、大丈夫えみり?!ワ゛ァ゛ーッ!!!!服!!そんな!!ボロッボロじゃん!!!」
「あ、チョロ……」
「うわっ臭ッ?!?!は?!えみりくっさいんだけど!ちょっと待って無理僕コイツに今触れない。触りたくない。一松そのままよろしく」
「は? いくらおれがゴミでクズだからってきたねーの押し付けないでくれますか??」
「ちょっと! そこまで言わなくたって…! てゆーか、私なら大丈夫だから…」

ギャンギャン言い合うチョロ松と一松を交互に見る。む、むっかつく!臭い臭い言わないでよ!私が1番それ思ってるんだから!
ウガァッ、と声が聞こえる。あの男だ、そう思い視線を移そうとするよりも早くチョロ松の手が目を覆う。見なくていいから、なんて言われて。いやそういう問題じゃ…!ザッザッと遠のく足音と隣にいた気配、一松?声を掛けても返事はない。
どこ行くの、ねえ。
ギュッと手を掴まれて体ごと向きを変えられる。そこにはトド松がいて、あれ、チョロ松は? 辺りを見渡そうとしてもトド松がそれを許してくれなくて、乱れた私の服を見てはギュッと口を噤んで私を睨みつける。

「バカえみり!何やってんのさ!!あのあと何度かけても繋がらないし!バカ!大バカ!」
「や、やめて、よ…」
「やめない!バカえみり!ほんっと信じらんない!どんだけ心配したと思ってんの?!ボク達の気持ち考えてよ!」

泣きそうなトド松の顔を見て、ひく、と喉が震える。

「ご、ごめ…、ごめんな、さ…」
「トド松、」

その声にどくん、と心臓が大きく跳ねた。歪む視界に映るのは表情を伺うことが出来ないおそ松。
目が、逸らせない。と同時にまた、去年言われたことがまた頭に浮かんでくる。歩み寄ってくるおそ松に心臓が潰れそうになる。

去年、言われたのに。私、私。
ほぼ目の前までやってきたおそ松をじっと見るもおそ松は私に目もくれずにそのままツカツカと歩いていった。…え? てっきり、怒鳴られるもんだと、私。

何も言わず通り去ったおそ松は振り返りもせず「えみり家まで連れてってくんない? したらもっかいこっち来て」と言い放った。
トド松は握った私の手をもう一度強く握り直して短く「行くよ、」と言い自転車へと跨る。後ろに座らせてもらってトド松のシャツの裾を掴む。

怖かった。あのまま、もしあのまま十四松が最初に来てくれてなかったら、私。考えるだけでおぞましかった。

「と、トド松」
「なに」
「ご、ごめんね… あの、ごめんなさい」
「……」
「来てくれてありがとう、ほんとに。ほんとにありがとう。ごめんなさい」
「……」

トド松は何も言わなかった。
私はただ謝り続けた。


連れてこられたのは松野家で、トド松は1度おそ松達のところに戻るからと言いまた出ていった。ボク達が戻ってくるまで絶対に家から出るなと念を押され渋々頷いた。風呂は好きに使っていいと言ってくれたので、お言葉に甘えようと思う。

シャワーで何度も何度も何度も何度も身体を洗い流して、何度も何度も何度も顔を洗って、唇を擦って、全身を擦って。あの男に触られた感触が残っているような気がして気持ちが悪かった。
何度も何度も何度も何度も擦って擦って擦って擦って擦って。チリッ、と痛みを感じて鏡を見れば唇は切れるわ腕は真っ赤に腫れ上がるわ。それでもまだ足りないような気がして私は身体を流し続けた。

正直いって、この件は私が悪い。そりゃあ襲ってきた男の方がもちろん、そりゃあもちろん悪いけど私も私。そもそもおそ松に釘を刺されていたのに性懲りも無く…。
でも、昨年ほどではない。露出を避けたし、目立つのだって避けた。
…いや、これはやっぱり、男が悪いのでは?
帰りだって私は十分気を付けていた。たくさん呑みはしたけど、意識だってハッキリしていた。ちゃんと意思があった。
でもどやされるのが嫌でスマホの電源を切ったのはこの私。睡魔に耐えきれず寝て電車を乗り過ごしたのも私。やはり考えれば考えるほど自分が悪いような気がしてきてならなかった。

ガラガラと引き戸の開く音に顔を上げる。玄関まで向かうとそこにはいつものパーカーを着た六つ子がいた。いつの間に、なんて思うと私の存在に気付いた十四松が開けていた口をきゅ、と閉じてじっと私を見つめてきた。そんな十四松に気付いた他の松もじっと私を見つめる。

「あっ、あの、ごめ…」

口を開いたのと同時におそ松がズンズン歩み寄ってきて重い拳を一つ。あまりの痛みに声にならない悲鳴を上げ頭を抱えてしゃがみ込んだ。
私の発した言葉は最後まで出し切ること叶わず、おそ松の拳骨に遮られてしまった。
突然の長男の行動に狼狽えた弟達はちょっと!なんて声をあげている。じんじんと痛む頭を上げ六つ子を見やればおそ松が「俺からガツーーーーーンと説教しとくからお前ら先寝とけよ」といつもの軽快な口調でそう言い放つ。
チラリとおそ松を見るといつもみたいにヘラヘラ笑っている。弟達は何かまだ言いたそうにしていたけどそれを飲み込むかのようにして絞り出した「おやすみ、」を残して2階へと上がっていった。
そんな弟達を見送るおそ松の背中を見つめていると振り返ったおそ松の顔はさっきみたいにヘラヘラと笑顔が張り付いてなくてただただ口を真一文字に結んで私を見ていた。
これ、ヤバいやつだ。


ちゃぶ台を挟んで対面するおそ松は縦肘をついてずっと下を向いていた。斯く言う私も顔を上げれなくてずっと俯いたまま。この状態でもう何十分経ったのだろうか。おそ松を盗み見ても何も喋り出すという気配は無いし、だからといって私から口を開いても彼は反応してくれないと思うし。
どうしよう、と唇を噛むとゆるりと顔を上げたおそ松がじっと私を見た。

「………殴られた?」
「、え?」
「あの男に殴られたのかって聞いてんの」
「あ、えと、殴られては、ない…です」
「唇切れてんの何で」
「あっ、これ、は…さっき、お風呂……顔洗ってる時に、ちょっと」
「腕のそれも?」
「……………うん、」

そう答えると一瞬の沈黙。
そしてすぐに大きくため息をついたおそ松。立膝立てて立ち上がったおそ松はドカッと私の隣に座り直して胡座をかいた。

「俺言ったよね」
「………」
「お前みたいな色気ない女でもうっかり襲われるかもしんねーだろって」
「……」
「俺言ったよね?」

語気を強めて言ってくるおそ松に思わず震え上がった。小さくごめんなさい、そう呟くとまたため息をつく。

「どうせ今年も仮装すんだろーなって思って様子見に行ったらお前は逃げるし、」
「…」
「終電過ぎても帰ってこねーからトド松に頼んで電話してもらってもお前は出ねーし挙句電源は落とすし、」
「う、」
「やっと繋がったかと思えば?後つけられてるから?迎えに来て??」
「……」
「そっからまた繋がらなくなるしどこにいるかもわかんねーし駅前の交番にはいねーしさあ」
「…」
「やっと見つけたかと思えばレイプされてるしさあ…」
「お、そま」
「も〜、ほんと、頼むから…あんまお兄ちゃんに心配かけさせないでよ………」
「おそ松、」

堪らず顔を上げるとくしゃっと顔を歪めて今にも泣き出しそうな彼の顔があって、私はツン、と鼻の奥が痛くなった。

「去年まじであんな格好で出掛けたとき引っぱたいてでも連れ戻しておきゃよかったってマジで思ってるし、でもそんなん出来ないからお前帰ってくるのずぅッと待っててさあ、俺釘さしたつもりなんだよぉ?」
「ご、ごめッ」
「なのに今年も出掛けようとしてるし、去年よかマシな服だったけどお前が渋谷行くのだって分かってたんだよ俺さあ…」
「ごめんねって、ば」
「マジでありえないから、ほんと、いっっつも俺の言うこと聞いてくんねーし、反発ばっかするし、まじ…まじでさあ」
「ごめんって、おそ松。ごめんなさい」
「あと、あと1秒でも遅かったらどうなってたのか分かってんの?ねえ。分かってんのかよ」
「うっ、…ッ!うぇ、」

分かってるよそれくらい。分かってるよ。ちゃんと分かってるよ。あと1秒でも遅かったら私、取り返しのつかないことになってたよ。汚されてたよ、ほんとに。
ぽろぽろと涙が零れ落ちて、そこからもうとめどなく溢れ出てくる。泣いていいわけないのに、私なんか、泣いちゃダメなのに。

「もーまじで勘弁してね? ほんとに。頼むから。一生のお願いだから。別にハロウィンの日に出掛けんなとは言わねーし、渋谷行くなとも言わねーけどさあ、…本音は行ってほしくないけど!! でも、せめて連絡の一つ寄越してくれって。な?お願い。」

そう言って頭を撫でてくれるおそ松の手があまりにも、あまりにも優しくてとうとう声を上げて泣き出してしまう。コクコクと首を縦に振れば「怖かったよな、ごめんなあ早く行ってやれなくて」なんて言葉を掛けてくれて。私が悪いのに、そんな、そんなこと言わなくてもいいのに。

ずっ、と鼻を啜る音がして、気が付いたらおそ松の腕の中にいて、まるで子供をあやすかのように背中を撫でてくれて私は年甲斐もなく声を上げて泣いた。途中で嗚咽を漏らすおそ松に私は気付いてないふりをしておいた。

2階にいるはずの弟達が揃って居間に降りてきてるのにも、気付いてないふりをしておいた。


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