鵺式。
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※仙蔵と雷蔵が♀





夕暮れに染まる町のショーウィンドウに、一人でぽつりと立つ少女が映り込んでいた。少女はただぼんやりと自身の顔を眺めている。
数年前までは、姿形も声も瓜二つだったもう一人の自分のことを思い出していた。しかし少女は数年で女の子らしく成長し、きっともう一人の自分も男の子らしく成長しているだろう。ショーウィンドウに映るのは数年前までは確かにもう一人の自分であったのに、今目の前に立っているのは紛れもなく自分自身だ。
二人は、同じ日、同じ時間、同じ母親から、同じ顔を持って生まれた。ただ、性別だけが違った。異性一卵性双生児というもので、とても珍しい双子らしい。二人は特別だと言われている様で、なんとなくそれが誇らしかった。けれど、性別は違うのだから大きくなるにつれて差が出てくるかもね、と言われて、もう一人の自分は不安そうな顔をしていた。
自分も今、そんな顔をしている。ショーウィンドウに映った顔はどこか不安げで、情けなく眉はハの字に下がっていた。
もしも性別も一緒だったなら、離れ離れになることもなかったかもしれない。そんな奇跡なんていらなかった。一緒にいられるだけで、他にはなんにもいらなかったのに。
陰鬱と息をついて、はっとする。いつの間にか、ショーウィンドウの中にもう一人の見知らぬ少女が立っていて、背中から覗き込まれショーウィンドウ越しにばっちりと目が合った。思わず振り返って、今度は直に目が合ってしまう。あまりに興味深そうに見知らぬ少女が自分を見るので、どぎまぎしながら首を傾げたが、そこで今まで自分が一人でやっていたことを思い返して、頬がかっと熱くなった。
あんまり恥ずかしくて俯きわたわたしていると、見知らぬ少女はふっ、と優しげに微笑む。その笑顔に、また熱が上がる気がした。あんまり驚いて気付かなかったけれど、少女はなかなか滅多に見られないほどの美少女だった。

「あ、あの…」
「ふふ…、いや、すまない。面白いものを見させてもらった」

言われて、ああやはりとまた俯く。すると見知らぬ少女は少し慌てて、違う違うと首を振った。

「私が面白いと言ったのは、貴方によく似た男を知っているから」

そいつは貴方のように愛らしくはないから、思い出してつい笑ってしまったよ、そう言う少女を前にぽかんとしてしまう。

「よく似た、男?」
「ああ。しかし本当によく似ている。だが兄弟姉妹がいるとは聞いていないから、他人の空似だな。不躾に覗き込んだりしてすまなかった」

そう笑って、じゃあ、と少女は踵を返した。

「ま、待ってください!」

何かを考える間もなく、咄嗟に少女のコートの袖を掴んだ。袖を引かれて、少女は振り返り首を傾げている。また顔に熱が集まるのを感じながら、ままよ、と少女は一つ、深く息を吸い込み顔を上げた。

「あの!その、男の子の名前は…」
「名前?…三郎だが」

その名前を聞いて、思わず涙が込み上げた。堰を切って溢れそうになるのを堪えながら、ありがとうございます、と蚊のなくような声で呟いて、少女のコートの袖を離した。
彼は消えたりしていない。確かに少女の知らないところで生きている。当たり前なことだけれど、こうして思わぬところで彼を知っている人に出会えた。それだけで嬉しかった。彼と離れ離れになってから、まるで自分がひとりぼっちで取り残されてしまったような気持ちにばかりなっていたから。
もう一度、引き留めてしまった少女に謝罪とお礼をして、踵を返す。自分以外の人から久しく聞いていなかった名前を何度も心の中で呼びながら、いつか会うことが許される日が来ればいいと、祈るように思った。





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