正臣誕生日 | ナノ


昔から一緒に居た正臣の誕生日くらいは覚えてた。小さい頃はおめでとう、って言って適当にお菓子かその時流行っていたフィギュアをプレゼントしていた。それから、チャットでの会話時は普通におめでとう、だけだった。正直親友、とまで言っていいのかわからないが幼馴染みにおめでとうの一言だけとはどうかと悩むのは最近一番仲が良いと言える友達部類に彼が入っているからだ。何時も明るくて楽しげがあって、まあ己の片想い人、園原杏里との恋を応援しつつ茶化すのはどうかと思ったが、それが彼の醍醐味だとも理解はしていた。園原杏里と出会う事でき、この日常を手に入れることが出来たのも、来良学園の賛否をし、来良学園に入学するよう仕向けてくれた正臣のお陰だったからだ。来良に入学する前の年はまだ己は池袋に行っておらず、やはりただおめでとうと告げる事しか出来なかった事が、今年は来良にも入学した為、目の前で祝うことは簡単であった。だから、今年こそはと何かサプライズをするべく僕は園原さんと買い物を決行した。園原さんを誘うのはかなり緊張して、買い物をしようと思い付いた日から5日くらいは日が経ち漸く誘うことが出来た、そして園原さんは誘いを快く受け入れてくれた。そして今現在は、お互いの都合が合う事が出来た休日に歩き慣れた池袋で、とある一件の店に足を進めている。そのとある一件とは普通の雑貨屋ではあったが、中を適当に巡っていれば親友に似合う物はあるだろうという考えでやってきた

「紀田くんって、何が好きなんでしょうか?」

黒一点の私服を纏う彼女は雑貨屋の中を僅かながら覗くようにしつつ己に問い掛ければ、親友の好きな物を想像するも強いてこれというものは浮かばず頭を悩ませた。彼の好きな物は何だろうかと考えているうちにまるで日が暮れてしまいそうだと思い、僕は彼女の手を軽く引いて雑貨屋の中へと足を踏み込ませた。雑貨屋の中は女の子が欲しがるような物から小学生が好むアニメの文房具と揚々な物が揃えられていた。きょろきょろと辺りを見渡すも彼に合う物など目に付かず思わず眉が八の字に下がった。すると彼女が一人緩慢とした足取りで店内を巡るように、彼へのプレゼントを探し始めれば、己も慌てて後を追うように棚に並べられた商品へ目を通していると、お揃いで色違いのマグカップが目に入った

「そっ、園原さん、これ、どうかな?」

多少緊張気味に問えば声が僅か裏返ってしまい恥ずかしさが込み上げながらも、此方へ視線を向けた彼女はマグカップを見て直ぐに穏やかな笑みを浮かべていた。その笑みが同意と告げるように感じ、僕は安堵の笑みを浮かべた。マグカップの色は黄、赤、青と分かれ、既に三種類しか残っておらず、問うように彼女へ視線を向ければ彼女は小さく頷いた

「色はそれで良いと思います、私は」

口を開いた彼女から発せられた言葉に見本の後ろに置かれた正方形の箱を三つ取り出しては、次ぐように頷くと彼女も笑みを浮かべ、何だか妙に気恥ずかしく感じた。足早とお会計に向かい、黄色のマグカップの入った箱のみを包装用紙でラッピングを頼み暫く待っていてと番号の書かれた紙を渡された。店内を歩いている彼女へ近づき待つように言われたと伝えれば、私が受け取りに行きますという返事が返ってきた。そんな事はさせられないと首を振ると、苦笑する彼女に爪先から熱が込み上げるのを感じた。慌ててごめんと謝った刹那、己の渡された紙に書かれた数字が呼ばれれば取りに行って来ると一言告げレジに向かい、包装された箱と包装のされてない二つの箱が入った多少大きめな紙袋を受け取り彼女の居る場所へと戻った。彼女の待つ場所まで戻ると、買い物も済んだ事だし帰宅をという形になれば少し名残惜しい気分となった。ふと、折角だから己の家で彼の誕生日パーティーをやろうという提案を思い付き口を開くと、彼女の方が早かったのか己と同じ考えの提案を持ち出された

「あ、あの、良かったら、誕生日パーティーとか、どうでしょうか?」

私の家で祝うのは無理なのですが、と続けて発せられた言葉に以心伝心などと思いながらも賛成を意味するように何度も頷けば嬉しそうに笑む彼女が居た。私の家ではと続けられた言葉に僕の家で良ければと返すとすいませんと、申し訳なさそうに彼女は謝った。そんな事はないと首を振ると眉を八の字に下げる彼女に己の眉も下がってしまい、苦笑をした

「あ、そう言えば、パーティーって事ならプレゼント以外にケーキとか、部屋の飾り付けとかした方が良いのかな?」

「飾り付けは時間が掛かってしまいますけど、ケーキならスポンジとか生クリームとか、果物の材料を買って手作りとか良いと思います」

問いに対し返された言葉に納得と頷くと、ならばスーパーで材料を買いに行くべく僕達はスーパーへ足を進めた。少し歩いた先にスーパーが見えると、やや小走りでスーパーの中へと足を踏み込ませれば、彼女がついてきている事を確認した後スポンジが売っているコーナーへと向かった。後からついてきていた彼女の足取りは徐々に早くなり己より先にスポンジコーナーへと辿り着くと、手早くある程度のサイズのスポンジを手に取れば、それを己へと見せ大丈夫かと問い掛けた。サイズは6号と書いてあり、三人で食べるには丁度良いと感じれば小さく僕は頷いた。彼女はそれを先程手に取った緑色のスーパーのカゴへと入れれば再び足を進め生クリームの売っている場所へと向かった。あっさり生クリームはどれにするか決まり、一番悩み所の果物も適当に缶詰めを買う事で買い物は終了した
ケーキは二人で作る予定であったが、今現在いつの間にか夕方の日が暮れた午後6時前後だった。夜道に彼女を帰らす訳にもいかずケーキを作るのは彼女の役目となったが彼女の作るケーキが己も食べられると思うと嬉しかったのも一利あるのだ。漸く彼の誕生日の支度が終われば、後は彼の予定を確認するだけであったが確か前に
(誕生日?そんなの杏里と二人で過ごすに決ま…って、んだ…な、何だよその顔は!暇だよ、暇!)
などと言っていた様な気もした為取り敢えず当日サプライズでも良いような気がした。そう考えているうちに自宅へつくと、メールと着信の入った携帯画面を開いた



(帝人に連絡が繋がらない…)

明日はついに己の誕生日だと言うのに、片想いの彼女にも親友の彼にも連絡を繋がらず気分は憂鬱としていた。ただ一つキーホルダーのついた携帯を手持ち無沙汰に揺らしながら小さく溜息を付くも、その携帯から音楽が鳴りメールが来る事は無かった。コンポから流れる好きな曲を聞きながら憂鬱とした気分を吹き飛ばそうとするにも、もし彼と彼女が二人でひそひそと買い物などしに行ったのならば目頭が熱くなり鼻がツンとするだろうと感じた。テレビを付けても面白い番組はやってない、好きな曲を聞いても気分は晴れない
さてどうしようかとカーペットで横になっていた体を丸めた刹那、携帯から大音量で鳴ったメール音とバイブに思わず肩がびくっと跳ねた。だがそれより、メールの返信が来たという歓喜に見舞われ急いでメールを開けるとやはり親友からの返信であった

("出掛けて今帰ってきた、ごめん"か…。畜生!帝人の分際で、俺を差し置いてお出掛けかよー…)

一気に脱力した気分となりメールの返信をする気分にはならなかった。暫く床でごろごろと横になりながら己の誕生日の予定を考えるも、勿論誰かと過ごす予定などなく溜息が零れた刹那、再び携帯が鳴った。次は何だよと気が重くなりながらも携帯画面のメールを開くとそこに浮かび上げられた文字にぱあっと心が晴れた気がした

"正臣、誕生日暇かな?"

先程まで浮かばれぬ気分であったがその文を見た途端上がったテンションに直ぐ様早打ちで返信を打ち送信した

("暇じゃないけど、帝人がどうしてもっていうなら暇にしてやっても良いぜ"っと、送信)

そして、早く返信が来ないかと浮かれた気分のまま返信を待っていたが、何時の間にか俺は寝ていてしまったらしい。朝起きると携帯には数件メールが入っていた。その中にはやはり彼の返信が入っていた。そう言えば今日は己の誕生日だと慌て起き上がれば、時刻は午前10時だった。メールは9時半に僕の家に来て、という内容だった。30分の遅刻だということに気付き適当な服を着て自宅を出れば、彼の家まで向かうのはそう時間は掛からなかった。彼の住むアパートにつき、階段を駆け上がればドアノブを捻り扉を開けたその一瞬、何が起こったか理解が出来なかった。クラッカー音と共に告げられた言葉に目頭が熱くなるのを感じた

「正臣、誕生日おめでとう!」

「紀田くん、おめでとうございます」

二人から告げられた言葉に瞳が潤めば、頬を涙が伝うのを感じた。慌てて涙を拭うと照れ臭そうにしながらも嬉しそうに笑う二人が居た。二人はまだ玄関で立っている俺の手を引き室内へと招き込んだ。彼の家に来るのは初めてであったが、そんな事より今は二人が己の誕生日をこんなサプライズで祝ってくれた事がこの上なく嬉しかった。ずびずびと鼻を鳴らしていれば、彼女から正方形の包装された箱のような物を渡された
開けていいかと問う前に開けてと促されれば、促されるが儘に包装を解き箱から物を取り出すと黄色で柄の描かれたマグカップが出てきた。不意に己の目の前に差し出された赤と青の色違いのマグカップはお揃いの物であった

「お、揃い…?」

恐る恐る問うと大きく頷く彼に、何だかこんな盛大に祝ってもらっていいのだろうかと次第に申し訳なさを感じた。不意に彼から促されるように机の上に三人お揃い色違いのマグカップを飾るように置くと嬉しさが込み上げていた刹那、彼女から控えめに差し出されたのは綺麗に盛り付けたのされたケーキであった。一瞬買ってきて物かと思ったが彼女の様子を見ると大方手作りであると考えられた

「スポンジとかは買ってしまったんですけど、これ、誕生日だから、作ってみました…っ」

僅かながら頬を桃色に染める彼女は愛らしく俺は有難うと笑顔で言うと、彼女はどう致しましてと返した。一方の彼はケーキを切り分ける包丁、ケーキを盛る皿を用意し机の上に揃えていた

「それじゃあケーキ、食べよっか」
そして俺の誕生日は始まった



何時の間か夜の7時になっていた。色々と長話をしていれば時間は直ぐに去ってしまうもので慌てて俺と彼女は帰宅の準備をした
彼が外まで見送ってくれると帰る道が正反対の俺と彼女はそこで解散した。楽しいすぎた1日で明日が来るのが怖い気もしたが、今日が楽しかったから良いとしようなどと考える。そして自宅に向かいながら欠伸をしていた刹那、携帯が鳴った。誰かなどと確認せずにやや寝呆けた気分の儘電話に出ると電話の主は沙樹だった

『正臣、今日誕生日だよね?』

電話越しに告げられた言葉に思わず双眸を大きく見開いてしまった。何故ならば沙樹には己の誕生日を伝えていなかったからだ。付き合っていた期間が意外にも短かった俺らはお互いの誕生日を知らぬ儘だった。そして不意に問うように告げられた言葉に俺は驚いてしまっていた。暫く己から沈黙が続くと沙樹の苦笑が聞こえた

『何で知ってるんだ?…って、思ったでしょ』

まるでエスパーかのように己の心を沙樹に読み始められていた。不意に肩が数回軽く叩かれた。誰かと振り返ろうとした刹那、沙樹の声が聞こえた

「だって私エスパーだもん
正臣の事なら何でも知ってるよ」

威張るように告げられた言葉に驚きより何より、まず最初に嬉しさが込み上げた。俺の目の前に沙樹が居るという事実と、沙樹が俺の誕生日を祝いに来てくれたという事だった。そして告げられた言葉に俺はまた目頭が熱くなるのを感じていた

「正臣、誕生日おめでとう」
だから俺はそれに返事を返すようにして盛大に笑みを浮かべた






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