三つ葉のクローバー | ナノ
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「弱点…!?」
「なんだよ。そんなのあんなら早く…」
「いや…正直弱点といえるほどじゃないんですけど…」

黒子の言葉に一同が聞き入っていたその時、珍しくもサヤカはその会話に一切入ってこなかった。違和感を感じた日向が横目にサヤカを覗けば、その視線は黄瀬一点を見つめている。いや、見つめるだとかそんな優しいものじゃない。鋭く、何かを探るように、ただじっと黄瀬だけを見ているのだ。そしてその視線に黄瀬本人も気付いているようで、時々此方を見ては居心地が悪そうに目を逸らしている。



「…オレ苦手なんスよねぇ…アレ」
「あ?アレって?」
「あー…はは。なんでもないっス」
「?なんだよ」

はぁ、と珍しく溜息を吐く黄瀬に笠松も疑問符を浮かべた。
…予想はしていたけど。サヤカっちは厄介な人だから、敵になるのは避けたかったのに。
自分だけに向けられる異様な視線。いつもへらへらと可哀想なくらいに変な思考を持っているあの子からは全く想像のつかないあの"眼"。実際向けられてみれば堪ったもんじゃねーや。味方であれば面白いと笑えたあの"眼"も、敵になってしまえば話は別だ。…尤も、彼女がいたからといって何かが変わってしまうわけではないのだけど。オレが勝つことには変わりないから。



「そーゆー大事なことは最初に言わんかー!!」
「すいません聞かれなかったんで…」
「聞かな なんもしゃべらんのかおのれはー!!」

メキメキと固め技を食らっている黒子を隅に、火神はサヤカに近付いた。

「…どうした。変だぞオマエさっきから」
「…え?…あぁタイガくんか」
「っ!?」

スッと自分に移されたその目に一瞬息が止まる。何もかもを見透かされている気分になり鳥肌が立ったが、瞬きをしてもう一度見た時にはサヤカはいつもの笑顔に戻っていた。無意識に力んでいた肩を下ろす。今のは…気の所為、か?

「タイガくん」
「…なんだよ」
「第2Qまで、なんとか保てる?」
「は?保つって…」
「バスケって、頭で考える必要があるから面白いよね」
「…どういう」
「TO終了です!!」

最後まで言い切れずに遮られた自分の言葉。にっこりと笑ったサヤカは、火神の背中をぱしんと叩いて言う。

「タイガくん。考えなきゃ」

第2Qまで保つ。その意味。
黒子君シバいて終わっちゃったー!!と、頭を抱えるカントクを他所に、サヤカはタオルとドリンクを回収しに行ってしまった。やっぱりさっきの目は気の所為なんかじゃない。作戦ボードと海常…いや、黄瀬を何度も交互に見てはじっと何かを考えている。

……そうだ、考えろオレ。どうすれば黄瀬に勝てる?

「このままマーク続けさせてくれ…ださい。もうちょいでなんか掴めそうなんス」
「あっちょ待っ…火神くん!もう!」
「あはは!タイガくん敬語変じゃない?」
「…とにかく、DFマンツーからゾーンに変更!中固めて黄瀬君来たらヘルプ早めに!黄瀬阻止最優先!!」
「おう!」

リコが慌てて伝える作戦にサヤカが小さく呟く。

「キセ阻止、か」

そんな簡単にいくものではないだろう。リコ自身それはよくわかっている。黄瀬が特殊すぎるだけで、黄瀬以外の四人の実力もかなりのものなのだ。ボックスワンの形を取ったとしても、黄瀬以外からの攻撃には対応しきれない。笠松の3Pが綺麗に決まりリコが拳を握る。

「面白くなってきましたね!」
「…アンタのその図太い神経が羨ましいわ」

違う意味で拳を握ってはしゃぐサヤカにリコも呆れる。えへへ、と笑うサヤカだったが次の瞬間には表情は消え、再びコートに目を向けていた。
やはりサヤカの読み通り黒子のミスディレクションは効果が薄れ、火神からのパスもスティールされてしまう。
ただじっと、サヤカはその様子を見ていた。

「くそ…ジワジワ…差がひらく…」

3点差だったその点差は5点、6点と徐々に開いていく。序盤のハイペースもあってか、誠凛の動きにも少し疲れが見え始めた。

「!…見つけた」
「え?」

不意に呟かれたサヤカの言葉。
黄瀬以外の海常レギュラーからの攻撃に唇を噛み締めていた時だった。

「…見つけました。キセくんを止める方法」
「え…」

思わずサヤカの顔を凝視するリコに、サヤカは表情を崩すことなくただコートを見ながら話し出す。

「…今、黒子くんの位置がバレました」
「ミスディレクションが薄れてきているから…よね」
「でもカントク。黒子くんって、ミスディレクション抜きでもカゲが薄いと思いませんか」
「それは…まぁ」

黒子の存在に慣れてきた海常に誠凛は焦る一方だ。火神もダンクを止められてしまい相手にボールが渡る。


「…そろそろ諦めたらどっスか?今のキミじゃ『キセキの世代』に挑むとか10年早えっスわ」
「なんだと…!?」
「この試合 もう点差が開くことはあっても縮まることはないっスよ」

黄瀬と火神の様子にサヤカとリコも会話を止める。一触即発な雰囲気にここにいる全員が息を呑む。黒子も二人のやり取りに静かに耳を傾けていた。

「チームとしての陣型や戦略以前に、まずバスケは体格のスポーツ。キミらとウチじゃ5人の基本性能が違いすぎる。唯一対抗できる可能性があったのはキミっスけど、だいたい実力はわかったっス」
「…体格、ねぇ」
「潜在能力は認める。けどオレには及ばない。キミがどんな技をやろうと見ればオレはすぐ倍返しできる。どう足掻いてもオレには勝てねぇスよ」
「…カントク。今の聞いてましたか」
「えっ…今の?」

黄瀬の言葉に誰よりも反応したのはサヤカだった。確かに彼は、火神は自分に勝てないと言った。ああそうだ、今のタイガくんが黄瀬くんに勝とうなんて身の程知らずにもほどがある。…ただそれは、タイガくんが、の話である。

「クックック…ハハハハハハ…!!」

火神の笑い声に誰もがぽかんと口を開ける中、サヤカだけは一緒になって笑みを浮かべる。アメリカにいたという火神には、勝てないくらいが丁度いいのだそうで。全く、どこまでも面白い人だ。

「…タイガくんは、確かにキセくんには勝てないと思います」
「……。」
「でも今あの人言いましたよね。タイガくんがどんな技をやろうと、 "見れば" 倍返しできるって」
「!それって」

「…つまり、コイツだろ!オマエの弱点!」

「…と、いうことです」

黒子の頭に手を置いて笑う火神の言葉にうんうんと頷くサヤカは、寧ろ最初からそのことを知っていたかのようだ。サヤカは立ち上がると作戦ボードを床に置いてマグネットを並べて行く。

「第1Q終了ー!休憩2分です!」

ベンチに戻ってきた火神とサヤカは目を合わせて笑った。

「考えは纏まった?」
「ああ!」

満足そうに頷いたサヤカは、駆け足で部員にタオルを渡し始めた。


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