三つ葉のクローバー | ナノ
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充血した火神の目に爆笑しているサヤカと、そんなサヤカに手刀を入れる黒子。反して緊張した面持ちで列になって歩く日向達は他校へと足を踏み入れた。

今日は海常との練習試合の日だ。

「ひぃっ…ぅぐ、っタイガくんどうしたのそれっ」
「…いつにも増して悪いです。目つき…」
「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ」
「…遠足前の小学生ですか」

運動部に力を入れている海常は広く、 まるで田舎者がするように上を見上げながら歩く面子にリコが喝を入れる。一年生三人組は圧倒されて口を半開きにしている。そんな中、自分を見遣り呆れて溜息を吐く黒子に火神が口を開こうとした時、目の前に人が現れた。

「どもっス。今日は皆さんよろしくっス」
「黄瀬…!!」
「広いんでお迎えにあがりました」

それは火神が眠れなかった一番の要因である黄瀬涼太で、誠凛の面々の顔つきが変わった。しかしそんな空気を気にすることなく黄瀬はだらしない顔で黒子に近づく。

「黒子っち〜あんなアッサリフるから……毎晩枕を濡らしてたんスよ、も〜…」

だう〜っと泣き真似をする黄瀬に日向達も力が抜ける。なんなんだこの男は。

「女の子にもフラれたことないんスよ〜?」
「…サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか。それに嘘つかないでください」
「嘘って…あれは別にフラれたわけじゃないっスよ!」
「…そうですか」
「まぁそれは置いといて…黒子っちにあそこまで言わせるキミには…ちょっと興味あるんス。『キセキの世代』なんで呼び名に別にこだわりとかはないスけど……あんだけハッキリケンカ売られちゃあね…」
「……。」
「オレもそこまで人間できてないんで…悪いけど本気でツブすっスよ」
「ったりめーだ!」

黄瀬の挑発的な態度とやる気に満ちた火神の顔を交互にみる誠凛バスケ部。全員の顔が引き締まったが、監督の相田リコと主将の日向順平だけは違った。

「ちょっ…と待ちなさい」
「「??」」

ぴくぴくと口元を引き攣らせているリコと無言で眼鏡を押し上げる日向に黄瀬含め全員が首を傾げる。

「…………あ」

黒子が何かに気づいたように声を漏らしたその瞬間、誠凛バスケ部全員がその出来事に気付いた。

「アイツどこに行った!?!?」
「だぁ〜っくっそ、見張っておくんだった!!」
「おい探せ!んな広いところで見失ったら見つけた頃には試合終わるぞ!!」

絶望的に頭を抱える者や言葉にならない叫びをあげる者を見て黄瀬はかなり困惑する。アイツ?え、誰かいないの?

「…あの」

黒子の声に全員がざっと振り向く。…と、そこには…

「痛いよタイガくん!暴力反対!暴力っていうのは人を傷つけるんだよ!?」
「テメーがちょこちょこ何処にでも歩き回んのが悪いんだろうが!!ちょっとは学習しろこのバカ!!」
「バカ…!?脳味噌まで筋肉でできてるタイガくんに言われたくないよ!!」
「よーしわかった今日こそブッ殺してやるよ!!」
「あああもう落ち着けお前ら!」

黒子に押さえつけられそれでも火神に向かって暴れるサヤカがいた。因みに火神は残りの一年三人がかりで押さえられている。押さえきれていないが。見つかったことに安堵した二年生は恒例ともなりつつある二人の啀み合いを放ってさっさと行くぞと踵を返したが、それも止まる。

「……………なんで」
「ん?」

手間を取らせて悪いと日向は黄瀬の顔を見上げるが、そこには先程まで余裕と自信しか感じられなかった黄瀬はいなかった。ただ目を見開いて、その目はまっすぐサヤカに向いている。

「……なんで…サヤカっち…」
「ん?……あ」

自分の名前に反応したのか動きを止めて黄瀬の方を見たサヤカは、忘れていたとでも言うようにぽかんと口を開けている。

「なんでここに…」
「あ、あ〜っと、お久しぶり、です」

状況を察した火神は動きを止め、黒子はサヤカを解放した。自由になった腕をぷらぷらと揺らしながら黄瀬に近づくサヤカを、誠凛は息を呑んで見守る。

「……そういえば忘れてたけど、橙乃も帝光出身だったよな」
「…しかも一軍マネージャーだったって聞いたし、黄瀬と顔見知りでもおかしくない」
「ってかアイツが一軍マネージャーって…務まんのか?」

彼等の小声での会話も、今の黄瀬の耳には何一つ入ってこない。ただ目の前の橙色に呆然としているだけ。

「いや本当はね、バスケ部に入るつもりもなかったんだけど…そこは色々あったということで」
「…で、でもサヤカっちは、」
「…私は今凄く楽しいよ。だからもうそういうこと言わないでくれるかな」
「…そ、っスか」

一瞬。ほんの一瞬だけ眉間に皺を寄せたサヤカに誰もが息を止めた。まだ出会ってから短いものの、一度だってサヤカが笑みを崩したことはなかったから。…火神と喧嘩している時は別だが。
ただ一人、その火神は見たことがあった。ついこの間…フード店でキセキの世代の話をしていた時だ。コイツらに何があったのかなんて興味はないし、そんな面倒なことを考えながらするバスケなんて楽しくない。でもどうにも引っかかるのだ。黒子といい、サヤカといい、その目に映っているものがわからないから。
しん…とその場が静まった時、動いたのは他でも無い、黄瀬涼太だった。

「ああもうサヤカっち会いたかったっスよ〜!あれだけ海常に来てって言ったのに!またバスケやるんじゃないスか!!」
「あははごめんね瀬田くん。まさか私もまたマネージャーやるなんて思ってなくてさ」
「ちょ、黄瀬っスよサヤカっち!また忘れちゃったんスか!?」
「あれ、瀬田じゃなかったっけ?」

さっきまでのシリアスな空気なんだったんだよ!?
黒子と火神以外のメンバーが各々にそう叫んだ。

「な、なんなんだよアイツら…!」
「二人はいつもあんな感じです。付き合っていたらキリがありません」

黄瀬に抱き着かれ振り回されながらもけらけらとただ笑っているサヤカを見て、火神は溜息を吐いた。

「…ちょっと心配したオレが馬鹿だった」
「心配したんですか」
「っるせー…」

誠凛は呆れながらも、先に行ってしまった黄瀬とサヤカを追う。何があったのかは知らないが、サヤカの表情を見る限り今はもう問題なさそうだ。





「……東京に残ったんスね」
「…うん。ここに来てよかったと思ってるよ」
「海常来ません?」
「行きません」
「ちぇー…勿体無いっスよ黒子っちも、サヤカっちも」
「それは試合をしてみないとわからないことじゃない?」

にしし、と笑ったサヤカを見て、やりようのない気持ちをぶつけるために黄瀬はサヤカの手を握った。
ああ、本当にサヤカっちだ。


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