04
「長居、なんかユーウツそうじゃん?」
朝、1コマ目の講義がある大教室。
いつものように俺の隣に座った友人は、俺の陰鬱な雰囲気を敏感に感じ取った。
「ああ、ちょっとな。」
昨日の晩、店長から電話があったのだ。
やたら美形な男が、真はどこにいる!?と、店長に凄んだという内容だった。
店長はビビって、バカ正直に俺のシフトを喋ったらしい。
「おい、長居がアンニュイになってたら、それだけで絵になっちゃうから。
せめてミカちゃんがいないとこでアンニュイになってくれよ。
ミカちゃんがお前に惚れたら、どう責任取ってくれるんだよー。」
友人は俺の気を紛らわせるつもりなのか、ふざけた口調でそう言った。
「はいはい。」
少しのどんよりな気持ちだったら、友人の言葉で気が晴れるのだけど。
今は、少しじゃなくて、かなりどんより。
「あ、長居、ごめ。
ホント、大丈夫?」
今度は真剣に俺を心配してくれているようだった。
「うん。
ありがと。
大丈夫だから。」
と、言ったものの。
夕方、バイトへ向かう足取りは重かった。
また来るのかな、あの男。
「お疲れさまです。」
雑貨店のドアを開けると、申し訳なさそうな顔をした店長がそこにいた。
「長居くん、ごめんねー。
いやー、美形に睨まれると、超怖くて。」
「いや…別に。
店長が俺のシフト言わなくても、あの男が毎日来るんだったらどうせ今日会っちゃうんですし。」
「あ、そっか。
そういわれればそうだね。
…ていうか、あの美形、長居くんの何なの?」
興味津々といった様子の店長。
「さぁ?
俺が知りたいです。」
初恋、などと言われたなんて口が裂けても言えない。
手早くエプロンを身に付け、タイムカードを押す。
16:50、と打刻されたカード。
今日は17時から閉店までの勤務だ。
あの男、本当に来るつもりなのか。
気が重いまま、店に立つ。
すると、それを見計らったようにドアが開いた。
「いらっしゃいませ。」
反射的に出る、その言葉。
言葉の先にいたのは、あの男だった。
「真、よかったぁ。
ちゃんといた。」
ほっとしたように、嬉しそうに、男は微笑んだ。
「あ!!
用を思い出したっ!!」
店長は男の姿を確認した瞬間、棒読みでそんなことを言って店から飛び出した。
店長、昨日、そんなに怖かったのか?
「真、真、こっち見てよ。」
店長が出て行ったドアを見ていると、男が俺の視界に無理矢理入ってきた。
「真は、悪い男だねぇ。
俺、昨日、すっごく悲しかったよ?
バイト休みなら休みって、ちゃんと言ってよ。」
怒ってるポーズのつもりだろうか、男は頬をぷくっと膨らませて唇を尖らせた。
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