05

「真、俺、今日は仕事休みなの。
真のバイトが終わるまで、真を見てていい?」

ものっすごく、迷惑。
しかし、あまりこの男を刺激しないほうがいいだろう。

「…他のお客さんの迷惑になりますから。」

俺の言葉に、男はパチパチと目をしばたかせた。

「ならないよぉ。
だって、じいっと静かに見てるもん。」

こじんまりとした店。
8畳くらいしかないスペースに、所狭しと雑貨が置かれているのだ。

そんな場所に、180近くはあるだろう男がじいっとしてても邪魔なだけ。

どう言えば諦めてくれるのか思案していると、お客さんが入っていた。

「いらっしゃいませ。」

そう声をかけると、そのお客さんはまっすぐ俺に向かって歩いてきた。

「あの、すみません。
アクセサリーのケースを探してるんですけど…。」

プレゼントを探しに、この店に来たというお客さん。
いくつかオススメを提案すると、気に入った物があったようで笑顔で購入してくれた。

「ありがとうございました。」

丁寧に包装した包みを紙袋に入れ、お客さんに手渡す。

「こちらこそ、ありがとうございました。
今度は、自分用に何か買いに来ますね。」

ぺこりと、頭を下げてくれたお客さん。
温かい言葉を言ってもらえると、俺もつい笑顔になってしまう。

「はい。
お待ちしています。」

店員冥利に尽きる、と、充足感をもってお客さんを見送った。
すると、またすぐに別のお客さん。

今日は、なんだか忙しい。
お客さんが途切れることなく、時間が経っていった。

その間、男は店のディスプレイの一部のようにじいっとしていた。



「真、俺がこの店のモノぜーんぶ買ったら、真は暇になる?
俺の相手してくれる?」

店内にお客さんがいなくなった後、男は真顔のまま首を傾げて俺に尋ねた。

「…あなたがこの店のモノを全部買ったとしたら、梱包するのに時間がかかってしょうがないでしょうね。
だから、相手にする時間は無いと思います。」

冷静に、論理的に、男に答える。

「そっかぁ。
じゃあ、全部買うの止めるね。
…でも、いっこだけ買う。」

男がそう言って手に取ったのは、写真立てだった。

「これにね、真と俺の写真を飾るんだ。
ね、今度、デートしよ?
そんで、写真撮ろ?
どこがいいかな?
俺、静かなとこがいいな。
ドライブする?
免許持ってる?
俺が運転しよっか?」

ふやっと微笑む男。
そんな男に、心底げんなり。

今まで、何人かの女の子に告白されたし、付き合った。
でも、ここまで俺の気持ちを察しない人間は初めてだ。

「その商品、お買い上げでよろしいですか?
ご自宅用でよろしいですか?」

デートうんぬんは、聞かなかったことにする。

「自宅用、だけど、プレゼント包装してほしいな。
真が包装してるの、もっと見たい。
真の指がね、すいすいすいって動くの見てたら、すっごくドキドキしたんだ。」

ああ、もう。

男の言葉を気にせずにプレゼント包装しようとしたが、何枚か包装紙をムダにしてしまった。



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