06
吹野には一応復讐を果たしたし、さて帰ろうかと思ったけど、帰れなかった。
俺の腰に淳那さんの手が回ったまま、ファーストフード店に入店。
俺の意志はそこには存在せず、ただ連れて行かれたっていう…。
淳那さん、人目とか気にしないのかな。
恥ずかしくないのかな。
俺は、猛烈に恥ずかしい!!
注文する時も腰を抱かれていたが、座る段になってようやく淳那さんの手が俺の腰から離れた。
「あの、ありがとう。
復讐に協力してくれて…。」
「…別に。」
「淳那は、創と同じ学校?」
「ああ。」
創は不良の巣窟みたいな学校に通ってる。
見た目で判断したら失礼だけど…。
あの学校に通ってるっていうなら、淳那さんの出で立ちにも納得…。
「今日、どうして恋人役を引き受けてくれたんだ?」
その質問に、淳那さんは答えなかった。
淳那さんの眉間はキュッと寄って、それはそれは怖い顔になった。
え?
何、この反応?
タダで協力するわけないだろーが、とか?
まさか、俺、謝礼を支払わなきゃなんないの?
それとも、創に弱みを握られてるとか?
創に脅されて、今日嫌々恋人役を引き受けてくれたとか?
睨まれてるのか何なのか。
目が合ったまま、逸らせない。
しばらくすると、質問に対する答えとは違う言葉が返ってきた。
「…今日だけじゃなくて、しばらく恋人のフリしてやる。」
「あ、ありがと…。」
何でそんな親切を…。
やっぱ、創に脅されんのかな。
創ってただの馬鹿じゃなくて、人の弱みを握っちゃうような奴なのかな。
うーん、どうだろか。
生まれたときから一緒にいるけど、だからといって創のこと全部知ってるわけじゃないもんなぁ…。
でも、創はテキトーな奴だけど、悪い人間じゃないはずなんだけどなぁ…。
俺がもやもや考えてると、淳那さんがテーブルを指でトントンと叩いた。
「なぁ、仁。
俺とお前、前に会ったことがあるの、覚えてないか?」
さあ?
ありましたっけ?
うーん…。
そういえば、前に創と買い物行った時に、不良っぽい人たちが創に話しかけてたよな。
その中にいたのかな?
「…えと創と遊んでた時に、会ったことがあったような…なかったような?」
俺の答えに満足したのか、淳那さんは口元を緩ませた。
「覚えてるじゃねーか。」
ふっと笑った淳那さんは、何だかやっぱり色気があった。
俺が女だったら妊娠してるな。
その後、何故かボウリングに行き、何故かゲーセンに行き、まるでデートのようだ…と思ったのは日が暮れてサヨナラする時だった。
「じゃあ、またな、仁。」
アドレスも交換して、サヨナラばいばいする駅の改札前。
淳那さんは俺の頭をなでなでしてくれた。
俺、ホントに淳那さんのオンナみたいだな。
淳那さん、役者だ。
吹野が見てるわけじゃないのに、恋人役を完璧にこなしてくれる。
恋人になりきってくれるだなんて…。
ただのいい人なのか、創に脅されて仕方なくなのか。
帰ったら創を問い詰めてみよう、うん。
無理矢理恋人役してもらってんなら、淳那さんに悪いし。
「今日、ありがとう。
一緒に遊べて楽しかった。
じゃあ、ばいばい。」
淳那さんと別れ、改札に入る。
振り返ったら淳那さんがまだそこにいたので、手をおもっくそ振りながら後ろ向きに歩いた。
そしたら、柱にぶつかってしまった。
後頭部に激しい痛みが走る。
きっと脳細胞がたくさん死んだだろう。
ヤバイ、馬鹿になる。
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