07
家に帰って自分の部屋の窓の外を見ると、隣の家の窓にも明かりが点いていた。
そこは創の部屋なのだ。
新聞紙をくるくる丸めてガムテープで補強して作った俺特製の棒で、創の部屋の窓をゴンゴンと突いた。
すぐに窓がガラッと開いて、創が面倒くさそうな顔を見せた。
「何か用?」
くあっと欠伸をする創は、俺に興味がなさそうだ。
おい、それでも親友か。
「今日、淳那さんに恋人役頼んでくれてありがと。
てか、どうやって頼んだんだ?」
「えー?
俺の幼なじみ兼下僕が困ってるから、ちょっと恋人のふりしてやってって言っただけ。」
「おい、誰が下僕だ。」
腹が立ったので、棒で創の肩を突いてやった。
そしたら棒を引っ張られて奪われてしまった。
その上、その奪った棒で、容赦無く俺の胸やら肩やら、しまいには頭を狙ってきた。
「ばーか。
創のばーか。」
逃げるが勝ちだ。
ピシャっと自分の部屋の窓を閉めた。
しかし、創は棒で俺の部屋の窓をゴンゴン突いてきた。
しつけぇー。
階段を駆け下り、隣の家へ乗り込む。
創の部屋のドアをバンッと開けて、そのままドロップキックを決めようとしたけど、ひらりとかわされた。
ベッドに空しく倒れた俺に、創はすかさず逆エビ固めを決めた。
「ギブギブギブ!」
確か、俺は創に淳那さんを脅して無理矢理恋人役を押し付けたかどうか聞こうとしただけだったはずなのに…。
何で今こんな目に遭ってるんだろうか…。
逆エビ固めからようやく解放されると、ベッドから蹴り落とされた。
ごろりと仰向けになり、そこでようやく再び質問することができた。
「創、淳那さんって、創の友達?
それとも、下僕?」
実は、創はあの不良の巣窟高校で総長だか番長だかヘッドだか頭だかなんだかで、淳那さんは創の言いなりなのかな…。
と、中2病的想像力を爆発させてみる。
「俺の下僕は仁だけ。」
なにそれ、嬉しくない。
ベッドで仁王立ちしていた創の足の甲を、おもくそつねってやった。
そしたら今度は股裂きをくらった。
「ギブギブギブ!」
本日二度目のギブは、なかなか創の耳に届かなかったようで、ホントに股が裂けるかと思った。
…酷い。
痛い目を見ただけで、結局俺は創の部屋に何しに行ったのかよく分からなかった。
逆エビで腰が痛いわ、股裂きで股関節は痛いわ…。
ほうほうの体で自分の家に戻る。
カバンに入れっぱなしにしていたケータイを取り出し、淳那さんにメールをした。
『今日はありがとう。
でも、創に言われて嫌々なんだったら、無理しなくていいから…。
おやすみ。』
結局淳那さんが創に言われて無理矢理なのか、それともただの親切なのか、どっちか分からん…。
無理矢理だとしたら、悪いことしちゃった。
親切だとしても、淳那さんを利用してるみたいで心苦しい。
ベッドにうつ伏せになって腰をさすっていると、すぐに返信があった。
『月曜の放課後、迎えに行くから。』
え?
俺を迎えにくんの?
…じゃ、ないか。
彼女宛のメールを俺に間違えて送っちゃったのかな…。
淳那さん、意外とおっちょこちょいだったりする?
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