▼織田信忠
「はは、はははははははは!」
己の目が正常かどうか、図りかねた。
「――――"人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり"――……いやはや、実に、実にその通りであった」
一つ浮かべるだけで容易く此方の熱を齎す莞爾が再現され、今、私の前に。
「俺の最期を見送るのが貴様とは、ふははは、まあ悪くは無いだろう!」
いや、まて。
そうか。
私は今、泡沫の夢を見ているのか。
「ん? いやすまなんだ、悪く無い……ではないな。寧ろ運がいいか。見知った者がいるだけ、この時代まだマシよな」
それはまるで、溢れんばかりの紅。
「……ああ、楽しい。楽しいなぁ。まさか人生最後、このような事が起こるとは、名残惜しいなぁ」
それはまるで、突き抜けんばかりの赤。
「だが楽しい時間ほど終わるのは早いものだからな……」
「尾張の閻魔の大裁判、これにて閉廷!」
それはまるで――見るもの全てを惹かれ焦がらせる朱。
これでは、まるで、まるで――――
「悔いはない。ではさらば。いざ、さらば!」
お待ちください、
待ってくださいませ、
「達者でな、光秀!」
――――――上、様
「人生の最後に、良い眠気覚ましを貰ったものよ――――ふははは、是非も無し!!」
気付けば伸びていた右手に残るは灰燼ばかり。
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