「「「誕生日おめでとー!!」」」 「今年で八歳ね、おめでとう」 「お兄ちゃん、頑張って作ったのっ受け取って!」 「もう八年か……あっという間だな。さあ、沢山食ってもっとでかくなれよ」 「うん!みんなありがとう!」 切断音が彼らの耳を通る事は無い。裏で討幕を計画していた幕臣及びその家族が全員揃い、準備が整った瞬間に任務を遂行させ、明るい装飾が加えられた部屋一面に血が飛び交う。幾ら殺しても時間が経てばまた芽が生えてくる。反逆の芽が。雑草ならば胃を満たす事が出来る分使い所があるが、この芽に使い所など無い。 「もう少し頭を捻れば良いものを」 化物に言われたくはないか。私から見れば、人間の方が余程化物に映るが。 ――目が覚めた。 「お二人は今年で幾つになりますか?」 朝餉の時に問うてみれば二人揃って首を傾げ、先に雪成の口が開く。 「分からん」 「知らねえ」 「こら食べながら喋らない。奇遇ですね、私も曖昧です」 咀嚼音を零して喋る銀時に指摘しながら漬物を食べる。そして味噌汁で一緒に流し込む。食べ終えると満足感から自然と口角があがって笑みが出来上がった。今日もご飯が美味しくて何よりです。 「いきなり何だよ」 「ふと気になったんですよ」 おめでとうと口遊みながら団欒をする彼らを思い出し、気取られないよう目を細める。 「年齢なんざどうでも良くね」 「そうだな、酒飲めるか飲めないかの違いくらいだし。そういや松陽、お前酒好きか?」 「好きでも嫌いでもない普通といったところでしょうかね」 大酒を飲んで微睡みそのまま寝落ちる瞬間は好きですが、酒そのものを楽しめているわけではないですから私が飲むよりも他の方が飲んだ方が良いでしょう。 「へえ。中々うめーから俺は好きだな。蔵にあるから欲しけりゃ取れよ」 「さっきの発言もう忘れてんのかよ雪成、明らか未成年なのに飲んでんじゃねーか」 「味見だよ味見」 「身体によくないので今後は止めてくださいね。ああ、しかし銀時はあまり好きになれないかもしれません、苦めに感じますから」 「え、酒って苦いのか。なら一生飲まねえ」 食後の餡子を頬張っている銀時。大の甘党ですからねえ、銀時は。今は名実共に子供舌ですから当然として、大人になっても同じことを言うのでしょうか。雪成は今でも既に好んでいる様ですし。 「では、誕生日は?」 「分からん」 「知らね」 「そうですか、私もです」 餡子を食べ終え盛大なゲップをかます銀時に茶を差し出す。本来の食後は餡子ではなくお茶ですからね、という意味を込めて送ったが何の意味も見出さずに一気飲みをした。 「はあ」 「んだよ露骨な溜息すんな」 「大人の私は誕生日が来ても今更なのですが」 「無視すんな」 「子供の貴方方は誕生日がないと不便ですね」 「無視すんなつってんだろ!てか別にいらねーしタンジョウビ」 「そだなー別に年数えたって何も面白く……」 「?なんだよ、米粒ついてんのか」 つまらさそうに頬杖をついていた雪成の目が銀時に移動すると話す口が止まった。銀時は乱雑に袖で口元を拭う。よく粒はつけてますが今回はつけてませんね、どうしたんでしょうか。 「いや、誕生日は普段より豪華な飯を食うのが普通だからお前は賛成するのかと」 「えっそうなの」 「豪華でなかったとしても誕生日の人が好む料理を振舞いますし、他には欲しがっていたり好きになりそうな物を贈ったりもしますね」 「マジでか!良いなタンジョウビ!やろうぜ!」 「知らなかっただけか、余計なこと言ったな」 「ふふ」 素直じゃありませんね。クスクスと笑みを零して雪成を見ると、視線に気付いて恥ずかしそうに顔を逸らす。 「では何時にしましょうか。好きな日付とかありますか?」 「オイ松陽、お前関係ねーってツラしてっけどお前も決めろよ」 「いえ、しかし今更ですし」 「お前が無い分減るじゃねえか豪華な飯食えねえだろ!」 「えーっと」 ……私が祝われても良いものか。我ながら、当惑しきった顔で口籠る。銀時が私欲に塗れた理由で言っているのは分かっているがそれでも頷く事は出来なかった。 「別に大人でも祝って良いだろ、誕生日」 銀時の言動に呆れながらも笑っていた雪成の声は、不思議とすんなり耳に入り込んだ。 「"生まれてきてくれてありがとう"」 こそばゆい。居心地が悪い。 それでも、五臓の奥から滲んでくるこの感情は。 「って、言わせてくれねえの?」 「……言いたいと思ってくださってるのなら……それほど嬉しいこともありませんね」 歓喜以外の何者でもない。 「…………タンジョウビって生まれた日を祝う日だったのか」 「意味知らなかったのかよ」 「だから知らねって言ったろうが」 先程の勢いが萎んだ銀時は曖昧な顔で柱にぶら下がっている暦が書かれた紙を見つめている。 「それじゃ各自で誕生日を設定するように。決まったらそこに書いとけよ」 雪成の言葉を受け考え込む。私という人格が出来上がった瞬間は曖昧で、そもそも日付の間隔も無かった頃の為分からない。いったい何時なのでしょうか。自分で誕生日を決めると言うのも、ちょっと変な気分です。 私が生まれた日。私が生まれた瞬間。 ……私が、か。 なんだ、あったじゃないですか。分かればこんなにも簡単だ。 筆を手に取り、柱の前に立つ。 「お、もう決めたのか」 「えっ早」 「はい。これが私の生まれた日です」 彼に言われたあの瞬間から、きっと。 「でしたら自分でやってみたらいかがでしょうか」 「先生が生徒と一緒に精進する学舎、素敵じゃありませんか」 「きっと先生はそっちの方がずっと似合いますよ」 戻る |