「どう」

出来上がったばかりの肉じゃがを口に運べばふんわりとしたきつすぎない肉と野菜の香りが鼻を包み込む。見た目も素晴らしければ味も申し分ない。……うん。

「百点満点です、信女」
「……」

肉じゃがが入った皿を持ったまま俯き照れる信女の頭を撫でた。最初はてんで皆無だった料理スキルも何回も根気よく練習すれば上達するというもの、料理が作れて悪い事なんてないですからね。何時か信女が嫁に行った時とか……嫁?……信女にはまだ早いですね、佐々木さんもきっと同意してくれます。

「では早速ご飯にしましょうか」
「うん」

炊飯器から白米を盛り、私が作った味噌汁やブリの煮付けを食卓に並べていく。向い合せで席に座りさあ食べようかといったところで、テーブルの上に置いてあった携帯がメール受信の知らせで光っていた。食事を始める前に中身を確認する。
"そこいくイケメンさん、高天原でがっぽり稼がない?いやマジで。マジ半端ないから"
差出人は万事屋さん。

「……」
「どうしたの、松下雪成」
「いえ、なんでもありませんよ」

こちとら今滅多にない団欒中なんですよ。信女が肉じゃがで100点叩きだしたところなんですよ。邪魔をするな。

「さ、食べましょう。いただきます」
「いただきます」

ぱくりと肉じゃがを一口。更にもう一口。……うん、美味しい。

「美味ですね、信女」
「……そう」

ニコニコと褒めたら何処か居心地悪そうな雰囲気を纏わせた。どう反応したらいいか分からないんですよね、分かってますよ。これからも頑張りましょう、信女。



私に届いたメールを見つめる信女を傍目に、信女が洗った皿を拭いて棚に戻す。今日も平和な日を過ごせました。

「松下雪成」
「はい」
「高天原ってなに?」
「吉原を健全にして客層を女性に変えた場所ですかね」
「これって助けを求めてるということよね」

メールの文面が映った画面を指差す信女。

「ええ、でしょうね」
「行かないの」
「……あー、なんといいますか」
「?……らしくない」

不思議そうな目と普段通りの無表情で首を傾げる姿を見てこの子は成長したなぁと感慨深い思いが生まれる。

「助けを求められたら、なんやかんや言いながら応じるのがあなた。それがあなたたちでしょう」
「……そうですね」

折角上手くいっている団欒を崩してまで外に出たくない、と言ったらどう思うのだろうか、この子は。どちらにしてもこの子の存在が私の中でどんどん膨れ上がってきている事だけは確かなんですけど。

「貴女も来ますか?どうせまた面倒な事になっているでしょうけど」
「あなたが行くなら」

ああもう、最近デレ多めですね貴女。今の声は録音して周囲の方に自慢したい程でしたよ。


――――――
――――
――


「失礼します、万事屋さんはいらっしゃいますか?呼ばれたので来ましたよ」
「……」
「遅い!!」
「他にやる事があったので後回しにしただけです」
「お前ホスト舐めすぎだろ、ホストたるもの迅速に動くべし!」

高天原の扉を潜ると万事屋さんから派手めのスーツを渡されたので、これに着替えろということだろう。そして今回はやはりホストか。

「なんだ、信女付きか」
「ええ。私が誘ったんです」
「ふうん。ま、ボーイ代わりにはなるか。……だいぶ兄妹らしくなってきたんじゃねえの、お前等」

そう嬉しいことを言いながら信女を見つめる万事屋さんの目も、最初に会った時と比べてだいぶ柔らかい物に変わっている。敵視もほぼ零だ。

「今回はどういう経緯で?」
「此処で働いてた連中が今日遊びにくる金持ちの客にビビッて逃げ出したからその応援だ。イケメンが必要だからな、雪成なら適任だろ」
「はあ、そうですか」

接客業か……信女は苦手そうだ。ウェイターもできるか分からない。最低限、刀だけは抜かないだけで他の凶悪性はそのままですし。

「万事屋さん、とても良い素材の持ち主を連れてきてくださいましたね!」
「先生!先生やっと来たネ!……うわ、信女も来たのかヨ」
「おや、不純物付きの松下先生も巻き込まれてる口ですかィ」
「……」

神楽ちゃんと沖田くんの正装を見た信女は鼻で笑った。

「オイ、今私見て笑ったな?今笑ったな?このクソ女ブチ殺すぞ」
「どうやらお前さんの目は腐りすぎて視力が0以下になってるらしいな」
「こら信女、失礼ですよ」
「む」

ぺシンと頭を叩き、高天原のオーナーが差し出した手に応じて握手を交わす。

「ホストなんて初めてなので心配ですが、出来る限りの努力は致します。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。貴方には私がマダムの相手をする際のヘルプとして働いてもらいたい」
「ヘルプですか」

全体を通して矢面に立つ事は少なさそうですね。しかし、ホスト……ちゃんと出来るでしょうか。高天原内にいる助っ人の顔を見渡せば真選組以外に長谷川さんを発見した。段ボールで武装している。ちょっと気が抜けちゃった。それにしても副長さんと沖田くんはその恰好、似合いますね。

「そちらの美しいお嬢さんは……」
「私の妹です。迷惑かと思いましたが、とにかく人手が足らないと万事屋さんが言っていたので少しでも手伝えればと」

は言ってないですけど。嘘も方便。

「兄妹揃って美しいですね!ではお嬢さんには居なくなったボーイの代わりにウェイターを頼みます。えーと……」
「私は雪成と言います。この子は信女」
「雪成さんと信女さん、雪成さんは今縛っている髪をおろして貰います。反対に信女さんにはその端麗な髪を一つに結んでいただきたい」
「はい、了解です」
「なんで」
「酒や氷を運ぶ時に抜けた髪が混ざってしまったら大変なので……申し訳ありませんがお願いします」
「松下雪成は」
「ああ、そちらは個性の為です。この中で長い髪を持った男性は彼しかいませんので、長髪枠として出てもらいたいのですよ」
「キャラ被りは漫画でもホストでもご法度ってことだな。分かったか信女」
「……」

オーナーと万事屋さんから言われた信女はそれ以上何も言わず、黙って私が身に着けている髪ゴムをとってポニーテールにした。外にいる状態で髪を縛っていないのは初めてなので、少しそわそわする。

「縛り跡が残ってますので梳いてください」
「はい」
「おお!松下先生今井殿、何時もと逆で新鮮ですな!」
「確かにそうですね。どっちも似合ってるのは流石ですけど」
「志村くん、どうして局長さんはパン一なんですか。さっきまでちゃんと服着てましたよね」
「ちょっとした下準備ですよ先生!これから頭にハンドルも取り付けます!」
「バラしていい、松下雪成」
「……」
「ちょちょちょちょ松下先生無言止めて無言!?お願い!お願いします!この子怖いです!」
「あ、すみません。許可を出すか本気で悩んでたので」
「先生ィィィィ!?何故ですか!?」
「いや、至って普通の悩みだと思いますけど!?年頃の女性相手にほぼ裸一丁とか通報されて当たり前のところですからね!!」
「もっと言ってやってください、志村くん」

今からでも協定を取り消してゴリラ抹殺しておくべきかと揺れ動くが、信女がバラそうとするのを止めて傍に寄って来たので思考を中断させた。先に言っておかなければいけないことを思い出した。

「客は女性ばかりですのでそんなに心配はないと思いますが、もし厄介な性質の客に絡まれて仕事を邪魔されたらパンチ一発分は許可します」
「うん」
「身体に御触りをしてきたら刀一発分は許可します」
「うん」
「刀一発分ってなに?信女の実力ちゃんと考慮に入れてる?たった一発でお陀仏よ?」
「一発は一発なので死んだらそれまでです、セクハラをした人の自己責任ということで」
「雪成くゥゥゥん!君ちょっと新八染みてきてるよ、シスコンの気配がするよ!!」

いやいや、この程度普通ですって。

「そもそもコイツにウェイターが出来るとは思えないんですがねェ、先生」
「やる前から諦めていたらそこで試合終了ですよ」
「審判を殺したらそこで試合終了でさァ」
「確かに審判殺ししそうアル。ルール違反したって審判に言われたらそんな事ないって斬りつけそうヨ」
「信女はやれば出来る子なのできっちり半殺しにすませます。犯人がバレなければ大丈夫でしょう」
「いや、犯罪は犯罪だろ……」
「あ、副長さん」

珍しいですね、ホストをやられるなんて。……と言おうとしたが止めた。その瞬間彼が我に返って帰ろうとする未来が見えたので。なあなあに流されて此処にいるんでしょうね、きっと。

「なんというか、アレですね。僕ら万事屋と真選組の皆さんと松下さんたちが集まると何時も通りのメンバーが揃ったって感じがします」
「行く先行く先にアホ面共が勢揃いしやがるからな、面倒臭ェ」
「一度縁が出来てしまったらもう離れられないとも言いますからねぇ」
「こんな奴等との縁なんざとっとと粗大ごみに入れてから丁寧に縛って捨てるわ」

万事屋さんの相変わらずの天邪鬼っぷりは見事だと思います。

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