「……あの、大丈夫ですか?副長さん」

ターミナル直ぐ近くの路上で見かけた私服の副長さんは目の下に隈がある上にとてつもなく死んでいて、ちょっとだけ万事屋さんに似ている。近頃は平和でテロも起こってなかった筈ですが何かあったのだろうか……と考えた所で思い出した事があった。此処一週間、大々的に禁煙令が布かれていたな。

「ああ……?なんだ、松下か……なんでもねェよ……」
「死にかけてますけど本当に大丈夫ですか」
「死にかけてる……?ククク……そうか、そう見えるか……いいんだよ、俺ァこれから煙草止めて健康的な身体になんだからよォ……すぐ回復すらァ」

予想外なことを言われ目を丸くした。

「凄いですね、副長さん。滅多にできることじゃありませんよ!」
「おう、そうだろそうだろ……俺ァ出来る子だからな……ほんと……マジで……」
「今日で丁度禁煙ウィークが終わってスパスパ吸うのかなって思ってましたが、そっちの方が身体にもよくて長生きできますものね。頑張ってください、副長さん」

先生の身分的にも大手を振って応援しよう。うん。

……瞳孔カッ開いてるんですけど、副長さん。

「そうだったァァァ!そうだよな、何回も何回も船乗ったしそれぐれェの時間経ってるよな!!」
「禁煙はどうします?」
「バカ野郎んなもん止めだ!!俺の身体全てがニコチンを求めてる!!」

プロの陸上競技選手真っ青の走りで近くにある煙草販売機に向かい、勢いよく押しすぎてボタンを壊しながら煙草を購入した副長さんは震える手で吸い始める。

「フゥー……生き返った。……なんか言いたげだな」
「いえ、別に」
「……そうか」

私も付き合いとして煙草を吸う事もありますし、美味いとも思いますけどあんまり合わないんですよね。酒の方が好みだ。まあ副長さんもストレスが多い生活を送ってるでしょうから、息抜きも必要なんでしょう。その為の煙草なんでしょう。その為のマヨネーズなんでしょう。……いやマヨネーズはちょっとアレだな。

「この一週間辛かったでしょう、お疲れ様でした」

真面目な人ですからね、この様子的に私の知り合いのように自宅などでこっそり吸ったりしなかったのだろう。

「あー、まあ……おう」

副長さんは気まずげに煙草から口を放し煙草販売機の傍にある喫煙所の吸殻入れに手を伸ばす。

「……!待って!」
「あ?」

爆発する前兆の光が漏れたのを見て咄嗟に副長さんの腕を引っ張った。



[禁煙用の爆弾入りと普段の吸殻入れを交換する作業は依然遂行中とのことです。喫煙者の皆さんはもう暫く喫煙所での喫煙を避けた方が良いでしょう、爆発する可能性があるので]

建物の外側に設置された大きな液晶型テレビで放送された言葉に、副長さんは完璧に落ち込んで項垂れている。

「大丈夫ですか?あ、すみません大丈夫じゃないですよね」
「……」

なんだか煙草みたいに燃え尽きかかってる鬼の副長の姿に憐れみが浮かんでくる。

「巡回中は我慢する事になっちゃいますけど、家でなら何をしても問題ないじゃないですか。今すぐ帰りましょ」
「…………総悟の奴が、屯所を禁煙にしやがった」
「えっ」
「……………………幹部会議で合法的に決めやがったから付け入る隙が一切ねェ」

トドメさしちゃった。完璧トドメさしちゃった。これ駄目ですね、明らかに副長さん死にかけですね。万事屋さんと目が瓜二つですね。

「厠も公園も飲食店も路上も屯所もダメ……え?本当にこれタバコ止めるべき?世界が俺にそれを進めてんのか?」
「おーい」
「い、いけねェ……ほんのちょっとだけでもニコチン摂取してちょっと前の決意が鈍っちまった……もういっそのこと死ぬしかねえぞ俺、おしまいだ」

極論すぎだろ。ピンポイントで打たれ弱いですね鬼の副長。

「副長さん、よければウチで吸ってきますか?喫煙スペースありますから」
「…………はっ?え?」
「やっぱりそこまでしたくはないですかね。というか、死ぬのではなくて今回を機に煙草は止めた方が良いですよ」
「……今なんつった?」
「煙草はやめた方が良いですよ」
「いやその前」
「やっぱりそこまでしたくはないですかね」
「もう一個前」
「ウチで吸ってきますか?喫煙スペースありますから」
「それェェェェ!!えっ、マジなの!?マジなのか??」
「副長さんがよければどうぞ」

がっちりと力強く手を握られた。ギリギリして痛い。顔、顔も近いです。

「是非ともお願いします神様仏様松下様」

目が血走ってますよ、副長さん。



「先生、あそこの扉なんで閉まってるんですか?何時もあいてるのに」
「煙草を吸ってる人がいるからですよ。今は入らないようにしてください」
「はーい」
「オイオイ、神聖なる教育現場でタバコかよ。随分と舐めた奴が混ざってるもんだ。新人か?今まで喫煙者いなかったし」

私が留守の間に遊びに来ていた万事屋さんが子供たちの相手をしながら喫煙スペースの扉を馬鹿にした顔で見つめ、私に振り返る。

「いえ、お客様ですよ」
「ヤニ臭ェ客は受け入れ拒否にしろよなー」
「はははっ、嗜好は人それぞれですからね。仕方がありません」
「甘いんだよなァこれだから雪成は」
「貴方が食べ好んでいる甘味ほどじゃありませんよ、糖尿野郎が」
「寸前!あくまで寸前だからね銀さんは!まだなってないからね糖尿病!」
「はいはい」
「はいは一回でしょ教育者がそんなんでいいのォ?!」

少し調子に乗ってません万事屋さん?

「松下。気は済んだ、すまなかったな」
「――ちょっとォォォ!なんでアイツがいるわけ雪成くん!あんなのがいたらコイツ等がヤニ臭くなるぞ、マヨネーズ臭するようになるぞ!!」
「ヤニはともかくマヨネーズはないでしょう」
「テメッ、万事屋ァ!なんで此処に!」

喫煙スペースから出てきた副長さんと万事屋さんが鉢合わせ、血管がびきびき動きながらメンチを切りあい始めた。もし乱闘に発展して何処かしらに傷つけたら請求書叩きつけますからね。未成年の部下と違って貴方方は立派な大人なんですから容赦しませんよ。


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