「素足で向かっていては間に合わんぞ。俺が送ってやろう」

桂の一言により、職員室から出ようとしていた雪成の足は止まる。

「乗り心地も良い上にスピードも安全も保障されている。なあに、金はとらんさ。さあ、乗るが良い!」

そう言って桂は当然のようにエリザベスを指差した。

「いや、結構です」

そう言って雪成は当然のように首を振った。

「何ィィィ!?エリザベス号のなにが不満なのだ!?」
「全部」
「全部だとォ?!信じられん、何時の間に雪成さんは考えが変わってしまったというのか……」
「私がエリザベスを気に入った瞬間が僅かでもありましたか。それは何時ですか」
「えーっと、確か二年前の冬頃だったかな」
「そもそもその頃貴方と私会ってませんしエリザベスも宇宙にいましたよね」
「あ、本当だ」

メゴッと良い音を立てて雪成のデコピンが炸裂し、桂は寺子屋の壁に埋まった。

[デコピンをした時の効果音じゃない……!やるな、貴様!]
「じゃあ私タクシー拾っていくんで、皆さん失礼します」

財布を持って寺子屋を出た雪成はまだターミナルの現状を知らないタクシー運転手を捕まえ、目的地を告げて向かわせる。途中から巨大なえいりあんの姿が見えだすと運転手の顔色が悪くなっていくが、雪成は腕を組んだまま前を見据えていた。

「うおおおおおお!雪成ィィィ!!今からでも間に合う、エリザベス号に移るんだ!!」
「さんを付けろよデコ助野郎」

エリザベス号に背負われた状態でタクシーに追いついてきた桂がドンドンと窓を叩いても一瞥もくれず、懐から手頃な小銭を取り出してからタクシーの窓を開ける。確かにスピードはタクシーと同等のようだが、雪成にとっては比較対象にもならない。

「此処は車道です、生き物が走り回らないでください。子供が真似をしたらどうしますか」

小銭を勢いよく弾いた。

「ごぶゥッ!」
[桂さァァァァん!]

「運転手さん、ここまでで結構です。これ以上は危ないですし」
「は、はい……」

これで邪魔者は消えた。タクシー代を支払い、車から降りて小走りでターミナルに繋がる道を進む。雪成は自分以外の野次馬を器用に避けながら目を細めて巨大えいりあんの様子を観察する。

(寄生型えいりあんか……どうせ危険性も理解できてない馬鹿が取り扱い方を間違えたんでしょうね)

冷めた視線を向けていると前方が更に騒がしくなったのを感じ、視線をターミナルから前方に変えた。

「のわァァァヤバイ!」
「来るぅぅ!!」

五百メートル先に寄生えいりあんの先端が暴れている姿を捉えて足を止めると、木刀を構える。

「フン、一人だけ良い格好をする気か貴様」
「……ヅラ」
「ヅラじゃない、キャプテンカツーラだ」

いつのまにやら海賊風の服装に着替え、エリザベスの顔がプリントされた眼帯を左目に巻いたキャプテンカツーラが背後から現れて雪成の隣に立った。

「その恰好気に入ってるんですかヅラ」
「ヅラじゃない、キャプテンカツーラだ。ふふ、かっこいいだろう?特にこの眼帯……特許をとって売り出したら大儲けになると思うだが、どうだ?」
「幸せな頭をしていると思います」

エリザベスも海賊風っぽいバンダナを巻き、威風堂々といった態度で仁王立ちしている。暴れる寄生型えいりあんから逃げ惑う民衆がどんどん三人いや二人と一匹組を追い抜いて後方に下がっていく中で、揃って並び立ち止まっている見るからに異色の三人というか二人と一匹組は目立っていた。

「それ変装のつもりですか?ウケますね」
「なんだと」
「真選組の皆さんがいる所に貴方とエリザベスを連れてきたくはなかったのですが……こうなってはせめてその特徴的な髪なんとかしてください、これあげますから」
「む。髪ゴムか……別にこれだけで十分だと思うがしょうがないな」

「何してんだてめーら、さっさと走れよってオイィィ!なに華麗にスルーかましやがったゴラ!」

一般市民をさしおいてパトカーで気楽に逃げている真選組副長が三人違った二人と一匹組に擦れ違い様に声をかけた瞬間、忠告を無視して巨大えいりあんに向かって走り出したのを見てイラッときた副長こと土方は怒鳴り声をあげた。だが次の瞬間に謎の爆発が起こり、腕で顔を庇う僅かの間に三人ではなく二人と一匹組の姿を一瞬見失う。

「江戸の象徴、ターミナルを壊すのは俺だ。貴様等えいりあんではない!」
[桂さんにこの俺、そしてデコピンが強い男が揃っていればこの程度どうにでもなる]
「万事屋さんがなんとかするまでの時間が稼げればいいでしょう」

各々が武器を構え、荒れ狂うえいりあんを斬り、叩き、爆破させていく。

「な、なんて奴等だ……!たった三人でえいりあんの進行を食い止めてる!!」
「海賊と優男ってどういう組み合わせだよ!?」
「真選組と大違いじゃん、税金泥棒が」
「オイ、最後の言葉喋った奴出てこい」

青筋を浮かべるが、民衆と一緒に後退していたのは事実であり今現在細かい事に突っ込んでいる暇はない為土方は煙草を吸って気を落ち着かせた。

「食いとめるどころか追い詰めてねェか!?」
「やっべー!救世主だ!」

(……海賊の服装じゃねェ男、どっかで見たような。いや、三人ともだな)

身に覚えのある後ろ姿に瞳孔を細めた土方は更に注意深く観察しようと一歩前に出るが、近藤の声によって意識を戻す。

「トシ、下がれ!砲筒を用意したぞ!」
「近藤さん、それは必要なさそうだ」
「なに?」

何も言わずに顎で前方を示すと、近藤は三人げふん二人と一匹組がえいりあんの進行を確実に食い止めた上で押し返している状態を把握し表情を明るくさせる。だが、沖田はそれとは対照的に目を眇め小さく呟いた。

「――あれは」
「すごい民間人もいたものだな!あとで表彰しよう!」

(いや、滅茶苦茶攘夷志士なんですけどね。滅茶苦茶貴方方の敵なんですけどね)

混乱した現場でもよく通る近藤の声が耳に入り、雪成は内心突っ込みをいれながらえいりあんの先端をまた斬り捨てた。カツーラが今はツインテールをして顔を誤魔化しているように、雪成もまた髪型と服装を何時もより明るいものに変えている。ただそれだけだが、年がら年中同じような格好をしている人物にとってはちょっとした変化も立派な変装の一つだった。

「木刀だけで対抗する侍に爆弾所持した海賊、見るからに変な物体ねェ……こりゃ本物の民間人なのか怪しいところだなァ、後で身分証を掲示してもらわねェと」

「副長ォォ!あんなに強くても民間人がいる以上俺達なにもできませんよ!撃てませんよ!」
「あんな風に動けないですが……見てるだけなんて歯痒いですッ!」
「あ?積極的に動いてくれんのならこのまま任せていいだろ。利用すんだよ、アイツ等が死にかけるまで待機だ」

「テレビの前の皆さん、ご覧になりましたでしょうか?我々は今民間人に事態の終結を負わせて職務を放置している瞬間を――ぎゃああああ!!」

土方は前方の動きから視線を外し、テレビ局のアナウンサーを蹴って強制的に実況を中止させた。だがその光景もばっちりテレビに映っている。

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