「ハンパ者がサボりなんて百年早い」
「ぐぶゥゥ!!!」

「しょ〜よ〜〜〜〜、テメェ後片付けで潰れる時間わかってんのかゴラ〜〜〜」

「あ、すみません忘れてました」
「俺の心配はァァ!??」

地面にのめり込んだ銀時の肩を掴みぽいっと放り投げてから、ぽっかりと子供一人分空いた穴を余所から持ってきた土を鋤で埋めて塞ぐ。最初は警戒ばっかで刀を手放せなかったあの餓鬼も、俺と松陽が一緒にいる時は持つ事が無くなった。

それは良い事なんだと思うが、慣れてきたその分銀時の本性が出てよく松陽にオシオキをされている。ボコボコと気軽に地面が抉られていく姿を初めて見た時、俺は頬が引き攣った。俺はアレをされた事が無い。されたくもない。

「おいしょっと」

今ではこの作業も慣れたものだ。最後にペンペンと叩き、感触を確かめてから頷く。

「なんで何時も俺ばっか怒られんの!?雪成だって勉強してねェじゃん!サボってんじゃん!」
「俺が先生だってことを忘れてる鳥頭具合に涙が出てくらぁ」
「いや!こっそり裏でお前と松陽二人で勉強会してんの知ってっから!!」

フン!と鼻息荒く顔を背ける銀時。彼奴の顔を見て、自然と松陽に視線がいった。カチリと視線が合う。――ああ、そうだな。同時に頷いてから銀時の両隣を陣取った。

「なんです、銀時。拗ねてるんですか?」
「俺らがお前をハブってるとでも?」

「バッ……!…………違ェよ」

恐らく銀時本来のノリなんだろう勢いに任せた会話のキャッチボールが止まる。俺らから目を逸らした銀時は俯き一歩下がった。

「別におめーらが陰でこそこそ何してようと俺には関係ねェし?俺は馬鹿だから勉強会にいても邪魔なだけだし?……頭が良い奴は頭が良い奴同士仲良くしてたらいいだろ?」

「銀時」

優しい声色で語りかけながら松陽は銀時が広げた一歩分の差を埋める。

「君は優しいから、私たちに遠慮しているんですね」
「別にそんなんじゃ」
「大丈夫。私たちは銀時の事を覚えが悪い鳥頭と思っていても、邪魔だと思っている訳じゃありませんから」
「……いやそこハッキリ言うか??」
「はははは」

ビシッと思わず松陽の腹に裏拳をかます。銀時は何も言わない。何時もならぎゃあぎゃあ喧しく反論しているのに、うんともすんとも。……思わず俺がつっこんじまったじゃねえか。

「言葉だけでは伝わらない事も、ありますよね」
「いっ……!?」
「うぉっ」

いきなり俺と銀時を片方の腕ずつだけで抱き上げた松陽。腕力幾つだよ。混乱している銀時を見て、俺の手はそんなつもりはなかったのだが動いて頭を撫でた。

「っ……」
「私も雪成も、先生歴は短いですから。配慮が足らず、銀時に寂しい思いをさせてしまうかもしれません。というかさせちゃいました。だから、暖かい思いをさせたいと思います」

そう言いながら向かう行先は松陽の部屋だった。暖かい思いってなに?

「さ、三人で昼寝をしましょう!」
「はァ!?」

俺らを下した松陽は敷布団を用意し始めた。

「物理的にかよ」
「今日は良い天気ですからきっと気持ちいいですよ。雪成、貴方が教えてくれたことです」
「まあな」
「あ、雪成も銀時よりお兄さんとはいえまだまだ子供ですから存分に私を頼ってくださいね」
「あ?」

もう頼ってるつもりだったんだが、と呟くと松陽は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔になる。

「……そうですか」
「そうだよ」
「よし、私も元気出ました!ささ、寝ましょう寝ましょう」
「お、俺は、いい」

部屋から出て行こうとする銀時の腕を松陽はがっしりと掴んだ。そのままどーんっと布団の上にダイブ。餓鬼かよ。

「雪成、貴方も」

布団に寝転びながら右手を向けてくる。その手をじっと見つめた。俺は松陽と違って、流れるまま銀時や他の塾生の世話をしてるだけだ。松陽がやりたい事を手伝ってやりたいと思っただけだ。それだけで、それ以外の奴の役に立ちたいわけじゃない。情なんてない。

「……ああ」

情なんてなかった。

「ふふ、布団がふかふかですね」

俺と銀時の肩を抱きながら笑う松陽と、戸惑っている銀時。助けを求める視線が送られているのを感じる。

「とっとと寝るぞ」
「はい。おやすみなさーい」

「お、おい……」

目を瞑り、松陽共々寝たふりをする。眠たければ本当に寝ていたが、今現在眠気は無かったから狸寝入りの形になった。銀時は暫くの間、もぞもぞと身動ぎをして逃げようか逃げまいか迷っているように見えたが、最終的に諦めて昼寝をする気になったようだ。

「……すぅ」

寝息が聞こえ始め、バレないように溜息を吐く。

(お兄さんねえ……)

銀時よりお兄さんとはいえ、という先程松陽が言った言葉が浮かんできた。彼奴は俺より年下。だが剣は馬鹿みたいに強ぇ。手合せした時、マジで此奴は鬼かと思った。善戦はしたけど負けた。その時の印象が強く、此奴は強いから放っておいても問題ないと思っていた。でも、それは上っ面しか見ていないだけだったんだろう。

今回のやりとりで印象はまた変わった。大人顔負けの実力の持ち主から、力だけが先走る餓鬼に。うん、彼奴は餓鬼だ。精神面が全然なっちゃいねえ。漢字も覚えてきて生意気な口をぺらぺら叩くようになっても計算問題が苦手な馬鹿。不出来な奴。俺の年下。俺が上なんだ。

(つまり、俺が銀時の兄ちゃんだ)

ちゃんと銀時と向き合おうと思った。


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