成り代わり | ナノ


※「没と放置とゴミ」に置いてある設定(これ)から。



終わった。
安堵の一心で深呼吸をし、身体に籠っていた緊張が漸く解けた。
レアな三つ同時、しかも異質な物が混ざった融合だったから二度目はそれこそ二度と無いだろう。その事実だけが嬉しかった。これで自分の出番は終了だ。


「クソ!ふざけるな、此処から出せ!」

「ああ、良いぞ」


そういやいたな、と己が行った事を横に置いて床に倒れ伏した二人とまだ叫ぶ余裕はある一人を落ち着いた心境で一瞥し、頷いて俺の本体たちが存在する世界に通じる穴を作り出す。
俺が言った言葉は至って短い筈だが、それを理解するまでに丸々十秒ほど使い、小さく「は?」と呟いた男の背中を蹴る。


「グハッ!」

「帰りたいんだろ?さっさと此奴等連れて行けよ」

「ッま、……!待て、ちょっと前までと言ってる事が違うぞ!?数分も経たない内にどんな心変わりだ!」

「うるせーな。昔は昔今は今だ」

「ぜんぜん昔じゃねーだろ!!数分前だ!!」


元の世界に戻って良いと言っているのに煩い奴だ。
きっちり痛めつけたはずだが随分と元気である。何故こんなに打たれ強いのだろうか。


「ま、そこまで此処にいたいって言うんなら住み込みで働かせてやるけど」

「はあ!?一ミリたりとも言ってねーよ!」

「オーナーに舐めた口を叩くんじゃねえ」

「グボハッ!!!」


パチンコ玉を何十発もぶつけると勢いよく血が飛び散る。赤い液体がどばどば床に広がるシーンを見て、自分でやった事だが引いた。……一般人にはやっぱり無理だ。もう二度と外には出ない。






「クリムゾーン」

「……はぁ。はいはい」

「溜息は余計だ」

「うるせえ」


あれから暫くして。今じゃすっかり雑用係兼俺の世話係としての仕事ぶりが板についたクリムゾンはぶつぶつと元の世界に戻りたいとぼやいている。だが俺が許さん。
だってクリムゾン超便利。実力で下したから偶にある反抗以外は従順で言う事聞くし、根が真面目らしくよく働く。お蔭でカジノはピカピカだし、野放しにしていた俺の髪はきっちりと纏められて涼しい。
髪を綺麗に縛るスキルを持つ奴は貴重だ。田ボの奴は金せびってきてうるさいし、純子はそもそも選択肢に入ってない。


「なあ、クリムゾン」

「なんだ」

「本当に帰りたいなら、帰らしてやってもいいぜ」


嘘。そんな気は毛頭ない。
オイルがきれたロボットのような動作で振り向き、俺を見つめるクリムゾンの三つの目はどれも泳いでいた。


「……なぜいきなりそのような事を、」

「お前だっていつもいつも帰りたいって言ってんじゃん?嬉しいだろ」


黙り込むクリムゾン。俺はだいぶ、こいつを扱き使っている。給料は出ないし労働条件も悪い。こいつだって元の世界でやりたいこと、再会したい誰かくらいいるだろう。
元の世界に戻れるというチャンスを見逃す筈がないのだ。


「…………」


だというのに、あの時といいこの時といい、クリムゾンは何故頷かないのか。
一回目はまだ俺の提案が唐突だったから、訳が分からなかったからと強引にこじつける事が出来るが、二回目はどうだ。
あの時よりもずっと落ち着いた状態だ。俺は話を誤魔化したり煙に巻いたりはするが、騙したりはしていなかった。今のこいつはそれを知ってる。
はいと言えば俺はお前を手放すしかなくなるというのに。


「オレは」


何かを紡ごうとしたクリムゾンの言葉に被せ、笑みを浮かべて首を傾げる。


「ま、お前がどこにいようがお前の命は俺のもんだっつうのに違いはねえから、そこんとこ履き違えんなよ」


ストーリーの展開通りだとしても、ギャンブルに勝ったのは俺で負けたのはクリムゾンだ。
クリムゾンの命は勝者の俺の物。
便利だから帰すつもりは一切ないが。
頷かない理由を知るには、まだ早いだろう。


「はっ?てめえ、おま……バカか」

「オーナーを罵るか、随分と偉くなったもんだ」

「……すみませんでした、申し訳ありません」

「ははっ、殊勝で結構」


何時も通りの会話。さっきまでの張りつめた空気が消えた。
俺がさっき言った事はまるで存在しなかったかのような態度で、クリムゾンは通常の業務に戻っていく。
理由はまだ分からないが、それでも、
「お前の命は俺のもんだ」
お前、笑ったよな。
頷かない理由はまだ知らなくていいが、なんでさっき、この台詞で笑ったのかは直ぐに知りたいもんだ。



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