成り代わり | ナノ


※「没と放置とゴミ」に置いてある設定(これ)から。



薄暗い闇の中、一人歩いている。動物も妖精もいない一人ぼっち。とても心細くて、泣いてしまいそうだった。
目指す場所はなく、虚しく孤独だけを抱えている。
何処へ行けばいいか分からぬまま歩き続けていると、周囲の雰囲気ががらりと変わった。先程までの静寂さとは打って変わり、自身への敵意に満ち溢れた危険な空気。喉が音を鳴らし、咄嗟に駆けだした。
背後から矢が放たれる。腕や足、頭を掠り衣服が血で滲んでいくのが感覚で分かった。
走っても走っても自分を狙う気配は一向に遠ざからない。どんなに逃げても変わらない。どうしよう、どうしよう、どうしたら逃げ切れる。
焦りが身を焦がし、今までは掠るだけだった鏃がついに背面の深くへ突き刺さる。激痛が走り倒れ込んだ。どうしよう、どうしよう、やだよ、痛い、やだやだ。

怖い、恐ろしい。痛い。
誰か……助けて。誰か、誰か……


「アングルテール」


温かいなにかが自分を包み込んだ。
それと同時に自分を狙う気配が消えたのが分かり、安心のあまり脱力した。もしかすると包み込んでいるなにかに安心したのかも知れなかったが、自分には分からない事だ。
目が覚める。


「やあ、起きちゃったか。でもまたすぐ眠れそうだね」

「フ、て、てめー……なんで」


寝る直前に消していた筈のランプが明かりを灯しており、宗主国のフランスが俺のベッドに入り込んでいる姿が一目散に目に入った。ぎょっとして身体を起こしかけるが、妙に身体が動かし辛くもごもごと寝返りをうったかのような曖昧なものに留まる。


「ちょっと様子を見に来ただけ。ほら、目を閉じて」


フランスの伸びた手が俺の両目を覆いかぶさり、ランプの明かりが遮断された。
何も見えない闇のような視界。
しかし、ここには心細さはなく、孤独がなく、敵意もなく、あるのは掛け布団と瞼に触れているフランス野郎の手だけだった。


「お前が寝るまでここにいるよ。良い子だからもう寝な」


お前なんかがいたら眠たくても眠れねえよと言いかえしたかった。この手だって気味が悪くて仕方がなかった。
異様に重い頭の動きと、ぐったりとした身体の所為でなにも抵抗ができないだけで。
じゃなきゃこんなにもぬるい体温とはとっくにおさらばしている。


「ゆっくりおやすみ、アングルテール」


先程の夢に出てきたなにかの声とフランスの声がどうにも重なると思った次の瞬間には、俺の意識はまた微睡みの中へ消える。

翌日、起きたらまだ居座っていたフランスに抗議したら「お前が服を手放さなかったから出られなかった」と笑いかけられ、そんなわけないと朝からポコスカ怒ることになった。



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