気まぐれ部屋 | ナノ




パカラ、パカラ。
彼独特の跫音が耳に入ってくる。

「先生!」

パカラ。音が止まった。

「見てください、沢山実っていました!」

大事そうに抱えた籠には彼の言う通り、多くの野苺を含む果物が摘まれていた。誇らしげな笑みを浮かべ胸を張る彼の髪を撫でると、途端に破顔して嬉しそうに俺の隣に座り込んだ。

「今年もこれでジャムが作れますね」
「お前の大好物だものな、野苺ジャム」
「はい、パンにつけて食べるのが一番好きです」

好物を食べる姿を想像したのか、ぎゅるると腹の音が彼から聞こえる。恥ずかしそうに俯いた。

「すみません……」
「今日も元気に鳴って何よりだよ。昼ご飯にしようか、ケイローン」
「はいっ!」

最近はまた一段と身体が大きくなってきたから食事の量を増やした方が良いな、イチジクを混ぜると食い付きが良いからもうちょっと多く採ろう、と考えた所で、とある事に気付いた。まるで親眷である。

「あ、雨の臭いがしてきましたよ」
「暫くすれば猛雨になるな、急ごう」
「はい。先生、外に出られないのなら今日の講習は何になるんですか?」
「あのなあケイローン、俺は確かにお前が知りたい事があるのなら分かる範囲で教えているが、綿密に予定を立てて教授してる訳じゃないからな」

きょとんとした顔で少しばかり間が空く。すると、彼は納得したようで力強く頷いた。

「成程!教えを乞うばかりではなく己で考えて自習しろという事ですね!」

実に都合の良い解釈であった。
拳を突き上げて決意を表している彼を眺めている内に、いつのまにやら口の端が上がっている。

(まあ、良いか)

曾て炉の女神から庇護を受けすくすくと成長したように、壮丁した自分が幼い子供を愛し育てるのは自然の理なのであろう。


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