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俺の家にジョジョという一人の同居者が増えてから、正直に言うと以前よりも生活にメリハリが出てきた。血はそこいらで野垂れ死にかけている輩から奪えば良いから食費に問題は無い。
お坊ちゃん育ちの為、汚い場所で暮らすのにストレスは溜まるようだがそこは慣れてもらうしかない。嬉しい誤算だったのは、ジョースター家の方針が自分の事は自分で出来るようにするというものだった為着替えや髪を整えるなどの最低限のことは出来たことだ。
皿洗い、洗濯などはやり方が分からず俺が一から教えることになったし、折角の食器が何枚か割れて余計な出費が嵩んだ。しかし、ジョースター家の方針とはまた違う貧民街の自分の事は自分で出来るようにするという指針と、俺に養われているという罪悪感と切迫感からか、ジョジョは急激な成長を見せた。
追い詰められたら成長する爆発力が別の形で現れたのだろうか?食事のマナーが洗練されたというわけではないが忙しなく食べて何かを零す、割る、壊すという行為が少なくなったし、寝心地の悪い寝具でも今ではぐうすかと呑気に眠れている。
「んむ、んっ、う、はぁっ」
甘く見ていたわけではないが、ジョジョが此処で暮らすようになってから早一ヶ月。此処まで早く順応するとは思っていなかった。
その為、一番最初に飲んだ血が俺の物だったからかどうかは定かではないが、ともかく俺の血が好みらしいジョジョに褒美として与えてやっても良いかと、今日のジョジョの夕飯は死にかけた浮浪者ではなく俺の鮮血である。
「ぷはっ!」
牛乳ではないがとれたてほやほやだ。それをこうも、まるでアルプスからとれたばかりの雪解け水であるかのように美味しそうに飲むジョジョを見ていると、いかんともしがたい感情が生まれてくる。
「……そんなに美味いか?」
「えっ?う、うん、すごく美味しいよ」
「今まで献血した分と比べたら?」
「あーっと……その……」
言い淀むジョジョの頬を引っ張る。
「痛い痛い!言う!言うから!」
「早くしろ」
「酷いなあアデル……あのね、怒らないでね?アデルのがすごく美味しいっていうのは本当なんだけど……他の人の血って、なんていうか…………ああっこんな僕がおこがましく品評していいんだろうか!」
「早くしろと言ってる」
「むわああああごひぇん〜〜〜〜!」
頬から手を離し、さっさと言えと睨み付ける。ジョジョは赤くなった頬を労わりながら苦し気な顔で俯いた。
「なんだか、ドロドロしてて……喉越しも悪いし、苦いし飲むのが辛いっていうか……血をくれた人は悪くないんだよ!いけないのは化物の僕なんだ!」
比類の相手が相手だから俺の血が好きなわけかと納得しながら、顔色が青褪めたジョジョの肩に手を置く。
「ジョジョ」
「……ごめん、取り乱して」
「いいや、まだ一ヶ月だからな。仕方がないさ」
寝言でジョースター卿やダニーの名を呼ぶジョジョの侘しさをどうにかしてやりたいと思う。だが、人を救うにはどうしたらいいのか、貧民街で生き抜いてきた俺はすっかり忘れてしまった。
「……ジョジョ、お前がいてくれたから俺は前を向けたんだ」
「アデル……」
そんなに卑下しないで欲しいと伝えたいが、上手く言葉に変換できない。女を騙くらかす時は口から生まれてきたかのようにぺらぺらと動くのにこういった時にだけ役立たずだ。
だから、偽りのない本心を飾り気なく言おう。言葉だけでは足りない。家族のように抱きしめる。
「お前が好きだから一緒にいる」
「あ、りがとう、アデル」
涙を堪えて咽ぶジョジョに、抱擁する力を強めた。
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