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※「迷いの森の光彦」より。
メアリーとダイアスの追いかけっこによってぐちゃぐちゃにされた広間の片付けを漸く終え、欠伸を欠きながらオフィスチェアに腰掛ける。
「『今度やったらお尻ペンペンだからな、OK?』」
「"ごめんなさぁい……"」
「"もうしません"」
「『俺はその言葉を信じるぞ。はい、解散!』」
痴話喧嘩も程々にしないとな。ちょっと散らかした程度なら良いけどあれは流石に……ちゃんと釘は刺す。
「『ん?』」
パソコンを起動しネットニュースを漁ろうと思ったら新着メールの知らせが届いてる。誰からだろうか。カチカチと操作して名前を見ると「Tuburaya Mituhiko」。おや、とカーソルを動かす手が止まる。何時もはエアメールでやり取りをしているが、もし緊急性を要す事があればと教えていたPCアドレスを使われたのは今回が初めてだった。
「『身近な人には出来ない困ったでもあったんだろうか』」
クリックして内容を確認すると挨拶もそこそこに出出しには「外国の日焼け止めは虫除け剤も兼用しているというのは本当ですか?」と書かれていて、あっちは季節的に夏休みの筈だから山にでも遊びに行くのかと予想しながら読み進める。
すると、「蛍の生息地についてや捕まえ方を教えて欲しい」「軍資金は貯めているからお金がかかっても大丈夫」と続いていて目を丸くする。「僕一人でやる前提で」って、両親や阿笠さんに協力してもらわないのか?一人で熟したいお年頃なんだろうか。
幾らなんでも海外の蛍の生息地は調べ直さないと分からないな……まあ、始めてこのアドレス使ってまで頼まれたんだしいっちょ人肌脱ぐか!何か光彦にも一人でやりたいって考える動機もありそうだし、こうやってコソコソ動こうとするのは嫌いじゃない。
――「ああ、二つを兼ねた物もあるよ。朝美ちゃんがオススメの日焼け止めがないか聞いてきた事があるし、「俺のアドバイスを聞いて通販で買った」とこの前光彦が送ってくれたエアメールに同封された朝美ちゃんのメモに書いてあったから、使いたかったらお姉さんに言えば貸してくれるんじゃないか?蛍は生息地域が広いけど光彦が住む場所に近い所を考えるならやっぱり群馬県の――」――
日本動物用スタックルームの中から蛍について書かれた本を引っ張り出して捕獲の方法を纏め、ネットで良さ気な場所を見つけたり移動料金の計算をしたりする内にメールの容量がどんどん膨らんでいった。
* * *
「『お、光彦からだ』」
この前送ったメールの返信はエアメールで届いた。日曜日の朝からラジオ体操をサボッて俺が教えた場所に一人で向かい、誰にも自分が群馬県に行った事を悟らせずに歩美ちゃんと哀ちゃんに蛍を見せるという目的を達成した、と書かれた文字はやや乱れている。当時の興奮を伺い知る事が出来た。
そういえば最近の光彦は歩美ちゃんと哀ちゃんとやら、どっちが本命なんだろうか。
――あのコナン君から一本取れましたよ!
うんうん、良かったな。
――よく此処まで計画的に動けたな、誰かに手助けしてもらったのか?と聞かれて、僕は思わず自分一人でやり遂げたと言ってしまいました。アデルさんからいっぱい助言されたのに、嘘を言ってごめんなさい。
見栄を張ったのか。別にそれぐらい気にしないぞ、俺は。
――コナン君は頭が良いですから、僕がアデルさんに相談したことを勘付いているかもしれません。ごめんなさいアデルさん!口裏を合わせてください!
成程、確かにあの子は鋭いからその懸念は正しい。コナン君に質問されても知らぬ存ぜぬしなきゃな。
――今回はありがとうございました!僕もアデルさんのような凄い大人になりたいです。
少し照れる……凄い大人に見えてるなら嬉しいが。
――追伸、記念写真を撮ったので見てください!
確かこの言葉はP.S.と同じ……前々から思ってたがコナン君も光彦も知識量が凄いな。
手紙に入っていた一枚の写真を取り出して見てみると、一名増えた少年探偵団と蛍が入った虫篭が一緒になって写っていた。夜の時間帯なのは蛍の光を分かりやすくする為だろう。
しかし態々写真を撮るのは……構わないんだが、深読みが得意なコナン君に俺が裏で糸を引いている事が伝わってしまうんじゃないか?この考えこそ深読みのしすぎかもしれないが、あの子の場合バレる可能性は十二分にあるからなぁ。
「"なんでバレちゃうんだ?"」
「『上手くいった記念に撮ったって考えるのが普通だけど、コナン君なら「俺に上手くいった事を伝える為に撮ったんじゃないか」と考えるかもなー、と』」
「"買い被りすぎだろう……送付する姿でも見たら推理するかもだが"」
「『うーん、そうだな〜』」
ま、バレてても周囲に言い触らさなきゃ問題ないし、いっか。
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