気まぐれ部屋 | ナノ




「だいぶ腑抜けちまったよなぁ、忍術学園……」
「そうですね」

木の枝に二人で座り、表面上は仲良しこよしな天女様グループが和気藹々とじょろじょろ歩いている様子を見下ろす。凄いよな、あれ……恋敵同士駆け抜けしないように牽制しあってるんだぜ……何時か傾国の美女になるって思ったけど、もう傾国の美女と化しているかもしれない。
いや、それは言い過ぎだろうか?先生方も天女に惚れていたらまさしくこの学園を地に落とす傾国の美女だが、現に先生方は惚れていないんだから。

火薬委員会を手伝う事になり出来た少ないメリットは後輩と仲良くなった事と土井先生と火薬について喋る事が出来る点ぐらいだろうか。血に濡れてない後輩が慕ってくれるのは気分が良い。土井先生も記憶喪失の際ドクタケでブイブイいわせていた実力者だ、そんな人と一対一で話す機会を多く作れるのは嬉しかった。

まあ、代わりに委員会で時間を拘束されるわけだが。そもそも上級生は委員会に参加できるくらい時間を作れる実力者しか融通きかせて委員会活動出来ないんだから、その仕事を放って女に感けたりしないでほしいのは嘘偽りない本音だ。
まったくもって遺憾である。ぷんぷん。

「ふあーあ」

欠伸を欠きながら土井先生から渡された火薬リストの頁を捲り、現物と文章が合ってるかどうか確かめる。これは大丈夫、これも大丈夫、あれも大丈夫。あ、これは湿気ってるな。よし、一部以外は問題ない。
よーし、後は土井先生に報告して今日の委員会活動はおしまーい。
肩を鳴らした所で背後の扉が大きな音を立てて開かれた。

「お前は……っ、はぁ……!馨……何故お前が?」
「く、く……ち、せんぱい?」

信じられない形相で僕を見る汗だくな久々知と茫然となりながら久々知を見上げる後輩。
火薬で若干汚れた指先に眉を顰めながら友達に声をかける。

「終わりましたよ、こちらに来てください」
「やっとか!掃除疲れた!あ、なんで久々知がここにいるんだ?」
「大五郎!お前も……どういうことだ?お前らは委員会無所属の筈だろう」

あ、先生に忠告されて注意していた上で天女に惚れた同じい組の久々知兵助だ。
僕と友達は不思議そうに目を合わせ、首を傾げる。

「仕事してるだけだけど?文句あっか」
「火薬委員会でない奴が管理をするなんて問題しかない、何を言ってるんだ」

ぱちぱちと瞠目した。
久々知は文武両道で頭が良いと思っていたが、恋の病で知能指数が低下していたようである。

「何を言うんですか!松下先輩と佐為先輩は僕だけじゃ委員会にならないから先生たちが手伝うよう言ったからやってくださってるんですよ!」
「そうだそうだ〜、俺らは皆の分も頑張ってるんだぞ〜」

友達が久々知の狼狽えっぷりに感激して楽しんでいる。なんという性悪、全くなんて奴だ。久々知は委員会よりも大切な人が出来たからそっちを優先するようになっただけで、別に後輩がどうでもよくなったわけじゃないさ。贔屓にしてる豆腐屋にだって行ってないぐらいなんだからその本気さはよく分かる。

「委員会にならない……?他の二人は、……違う、俺達は今まで何を」
「二人とも大人げないですよ。久々知や他の委員会に所属している上級生たちは何よりも優先する事が出来る人を見つけたんです、祝福するべきでしょう」
「そ、そんな……っ」
「意義ありー!それは普通の人の場合であって俺ら忍たまは鍛錬が恋人のはずですよー!」
「この人達は忍たまから天女の護衛に転職したので問題ありません」
「えっそうだったの!?うわ、気付かなかった……ごめんな久々知、天女様の護衛になってるんだったら委員会はお前の仕事じゃねーわ」
「ええ。その通りです。久々知、今貴方方は休学扱いになっています。もし護衛から忍たまに戻りたい場合は先生方にお伝えして正式な手続きを踏まなければ今度こそ退学になるらしいので、どうぞ注意してくださいね」

ぐずぐずと泣きじゃくっている後輩の頭を撫で、だいぶ追い詰められているようなので抱き上げる。あっかんべーをして久々知にちょっかいをかける友達の頬を抓り、そのまま煙硝蔵を出て土井先生の元へ向かった。


 * * *


「……そうか、分かった。迷惑をかけたな」
「明々後日の委員会はどうしましょう?」
「久々知の動き次第といった所か。もし明々後日までに元に戻ったら久々知から二人の方に伝えにいかせよう。もし彼奴が来なければ、申し訳ないがまた頼む」

同時に返事をして職員室から出ていく佐為と松下は職員室の時では取り繕っていた真面目な雰囲気を引っぺがし、友人同士らしく気安い話をしながら廊下を歩いていく。

「相変わらず土井先生の髪ってひ土井ですよね」
「あれは半端ねえ、超うける」

情緒不安定な後輩は担任に預け、今二人は何にも縛られない自由の身だった。
近頃は天女の噂により学園に侵入する曲者が増えた為に朝と昼は授業で、夜は始末で忙しかった二人はのびのびと身体を伸ばす。

「そういやさぁ」
「はい」
「なんで久々知は蔵に来たんだと思う?」
「うーん、天女に嫌な点を見つけて好感度が下がったのではないでしょうか」
「やっぱそうかな?天女様が委員会に行った方が良いって言う訳ねーだろうし」
「何かしらあって優先順位が委員会の方が高くなったのでしょう」
「それが気になるんだけどな〜」
「えっ……そんなに気になるとか貴方、まさか久々知の事が好きなのでは……」
「はぁぁぁぁ〜〜?そんなわけないです〜〜〜〜」
「酷い!私の事は遊びだったのですね!」
「ち、違う!それは違うんだ、昨日の夜の事は誤解なんだ、信じてくれ!」
「もう嫌です、貴方の事は何も信じられない……!」
「お、お松……」
「今まで私を放って余所の女としっぽりしていた癖に急に優しくして、信じてなんて言われても……信じられるわけないじゃないですかっ!」
「もう二度とお前の事は離さない!言葉で信じてくれないならこれから一生態度で示し続けてやる!」

「佐為様……!」

「お松……!」


「「……」」


「あははは!ウケるー!どこの三文芝居だよ!」
「貴方の台詞が馬鹿すぎるんですよ、臭すぎですしあんな信用ない言葉を信じる妻がどこにいます?」
「目の前にいるぞ、お・ま・つ☆」
「キャアア!格好いいです旦那様、一生ついていきます!」
「ふふ、俺の可愛いお松……離さないぜ、二度と。……クケケ、馬鹿な女だ。こんな薄っぺらい言葉を真に受けるなんざ……搾り取るだけ搾り取って橋の下に捨ててやる」
「そんな夫の内なる心を見抜けなかった妻は、崩壊の道を突き進んでいくのでした……完」

「くけけけっ」

「うふふふっ」




完全に二人の世界に入りきった松下と佐為の芝居を耳に挟んだ生物委員会の一年生たちは、つい先程委員会に戻ってきてくれた五年の先輩の事を思いだし今にも泣きそうだった。


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