気まぐれ部屋 | ナノ




「父様たちも母様たちもラミもいねえ世界なんてクソだ、いやクソ以下だな。俺らだけが不幸だなんて俺が許さねえ、俺が味わった不幸の分だけ他の奴らに味わわせてやる、呑気に生きてる奴等を恐怖のどん底に突き落とさなきゃ気がすまねえ俺の残り少ない寿命は一分たりとも無駄にしねえ、破壊したい、どいつもこいつも地獄に突き落としてえ」

――数分前、俺をファミリーに入れてくれとダイナミックお邪魔しますをしてきた少年の頭はかなりイカれている。世界への呪詛に溢れててモブ部下がビビるくらいには復讐心が豊かだった。
まあ、入りたいなら入ればそれでいいんじゃないだろうか。破壊衝動が湧きまくってるのは身内にも被害がきそうなのがやや懸念材料だが、世の中はクソだと思ってる者同士、同じ穴の貉だ。
しかし……コイツ、本当にローだよな?言ってる内容も、帽子も、見た目も、ローだ。だが……うーん……言ってること、原作とかなりズレてるような?
……気になるは気になるが、どうせ最終的には原作と同じ展開になるのだろうし、放って置こう。過程は違っても結果は同じなのだ。今までがそうだったのだから今回もそうだろう。
思考を纏まらせ、一先ず原作通り最高幹部二人にローの相手をさせようとした瞬間。

「もうちょっと待っててくれアデルお前の所に行くのは後3年かかるでもそれぐらいお前なら許してくれるよなだってお前俺には甘いもんなまた会えたら前と同じように遊ぼう、ラミたちも紹介してやるこの世界の俺の家族なんだふはははは」
「――待て」

今、こいつは、何て言った?

「おい。俺とこの餓鬼を今から二人っきりにさせろ。周囲に誰も近付けさせるな。トレーボル、ディアマンテ、お前らもだ」

周りの奴等から見れば俺は唐突に雰囲気がガラリと変わったように思うのだろう。下した命令にも納得がいかない筈だ。
説得する時間も惜しい。反論を口にする部下たちが無性にムカつく。ローを除いたこの部屋の全員に覇王色の覇気を叩きこみ、強制退去させた。いきなりばたばたと床に倒れた部下の姿に、今までぶつぶつと呟き続け自分の世界に入っていたローは漸く反応し顔を上げた。

「お前……何したんだ?」

手は震えていた。手のみに非ず、肩も腕も足も、身体全てが震えていた。この震えの大本は、恐怖ではなくて。

「……おい?」

目が潤み、視界が滲む。

「言ったよな。俺は後3年で死ぬんだ、そのタイムリミットを無駄に消費するわけにはいかねえんだよ!」

この世界に来てから神は憎しみの対象でしなかった。だが、しかし。始めて神に向けて、感謝の念を抱けそうだった。

「アデルもラミも寂しがり屋だから早く会って抱きしめてやらねえといけねえ!俺は!優しい彼奴等と二度と会えなくした世界を滅ぼしたい!お前の意味がわからねえ行動に付き合ってる暇は――」

ローの頬に手を伸ばし、腫れ物を扱うように丁寧に触れた。ああ、生きてる。体温だ。俺の大切な人。

「俺に触るんじゃねえ!何しやがる!!」

俺が、世界で一番愛していた、



「サソリ」

ぴたりと動きが止まった彼の身体に腕を回し、二度と離れないように抱きしめた。小さい。でも生きてる。俺の事も覚えてくれていた。俺と同じ。俺と。俺は。

「久しぶり、サソリ」

――世の中は案外、捨てたもんじゃない。


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