気まぐれ部屋 | ナノ




「あ、お金みっけ」

任務中だけど、道の端にキラリと光る素敵な落とし物を見つけ、思わず寄り道をする。
何円かな?とドキドキしながら拾うと、なんと50円玉でした。やったね。
機嫌を良くし、さあ任務の続きをと立ち上がろうとしたその時、ポコリと頭を叩かれた。

「あいたっ」
「何やってんだ、他の隊に遅れをとったらどうすんだよ」
「すいません先輩」

隊と言っても、この隊にはわたしと先輩しかいない。
期待されてないからだとか、人数が少ないからとかじゃなくて、単に先輩がそういっているだけである。
先輩は見栄っ張りなのだ。
チームでいいんじゃないかと進言したこともあるが、さっきのように頭を叩かれた。

「ったく、行くぞ」
「はい」

因みに、任務というのはポケモン詐欺に使用する為のおとりポケモン乱獲作業のことだ。聞いて驚け、わたしが所属している組織はなんと犯罪者の集まり、悪の中の悪、しょっちゅう新聞に(行った悪事が)載るロケット団なのだ。

「一番ポケモンが捕まえられたらボーナスが出るんだからな。分かったな」
「分かってますよう、何回も言わないでください」

わたしもボーナスは欲しいです、と言うと、先輩は
「良し、お前はおとりだからな、そのままでいろ」
と命令される。
そのままでいればいい、というのはよく分からないが、仲間の中でも一番頭が切れて要領がいい先輩のことだ、きっと意味があるんだろうと自己完結し、頷く。

「はい」

……でもなんでいるだけでいいんだろう?
ボーナス欲しいから、結構張り切ってきたんだけどな。ね、キングさん。ヤーさん。
腰についている2個のモンスターボールを撫で、わたしは早足の先輩の後を追う。

 * * *

性差以上に年齢差のせいで歩幅が大きく違うアデルがきちんとついていけているか、ちらりと横目で確認した先輩は無意識に溜息を吐く。
ロケット団の最年少団員として良い意味でも悪い意味でも有名なアデルは、他の団員と違う所があった。

若いから?確かに若いが、15歳で入団した奴もいる。珍しいが、無い訳ではない。
性別?そりゃあ男の方が多いが、女の団員だって沢山いる。
経歴?他の奴と大差ない。両親が借金に溺れて金を稼ぐ為に入団したのだ。正確に言えば、年齢制限のせいでまともな仕事に就けなかったから自然と選択肢が絞られてしまったというのが正解である。

アデルが他の団員と一風違うところ、それは性格だ。

善か悪かで言われれば、満場一致で悪に属されるロケット団は殆どが荒くれ者たちだ。幹部以上ともなれば理知的な人物もいるが、組織の大部分を占めるしたっぱには「理知的」と漢字で書けないものが沢山いる。
荒くれ者のイメージはと問われれば、まず「暴力的」、その次に「直ぐキレる」、更に「人相が悪い」、もういっちょおまけに「残忍」と、数々の言葉が出されるだろう。

だが、アデルにはそれらの言葉全てが当てはまらない。
性別のせいもあるだろう。年齢のせいもあるだろう。だが、大部分を占める理由は性格なのである。
ガン付けられてもその事に気が付かず、何もないところで転び、料理を作ってる途中で居眠りをして食べ物を焦がし、どうろに放置すると何故か野生ポケモンが寄ってきて、困っているお年寄りを助けに走りそして転ぶ。

明らかにロケット団に向いていない。
しかし、非人道的で悪逆行為の任務に文句を言う様は見せないのだ。

何もないところで転ぶ、という言葉通り、心底鈍くさいがやれと言われたことは誠心誠意込めてやりとげる。
休日ではポケモンのレベル上げの為にトレーニングに励んでいるという。

女隊員の中には、母性本能でも擽られたのかアデルにやたら親切したり、甘い面を見せる輩もいる。ロケット団には様々な事情を抱えた者が存在し、親が亡くなって仕方なく入団したり、好きなだけ犯罪を犯すことが出来るという理由で入団する奴もいる。
アデルを親切にする女隊員は、皆多かれ少なかれ親しく、尚かつ年下の者を失った人ばかりだ。

「(ふん、甘い奴ばっかだ。そんなんで上に行けるわけがない)」

アデルに先輩と呼ばれ慕われる男はフンと鼻息荒く、目的地へ急ぐ。
寧ろこいつは置いていってしまおうか、と考えた瞬間、男の耳に

ベシャッ
「うべあっ!」

と、何とも情けない音と声が入る。

「……何やってんだテメェ」
「すみましぇん」

アデルはすくっと直ぐに立ち上がり、支給された団員服についてしまった土を払う。
倒れたと同時に帽子も何処かへ飛んでしまったのか、アデルの帽子と同じ色の髪が露わになっている。

「あれ、帽子……」

帽子が無くなったことに気付き、おろおろと辺りを見渡すアデル。帽子はすぐ近くの茂みに落ちている事に気が付いていないようだ。
最初はアデルの様子をただ見ていただけだったが、次第にイライラしてきた男は舌打ちをうちながら茂みに落ちた帽子を拾い、荒々しくアデルに差し出す。

「あ、先輩、ありがとうございます!」
「さっさとしろ!本当にぶん殴っぞ!」
「す……すいません」

かぽっと帽子を被ると、アデルは満面の笑みで男の後ろに着く。


男の方も、アデルも気が付いてはいなかったが、端から見ればその姿は年の離れた兄妹にも見えなくはなかった。


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