気まぐれ部屋 | ナノ




中学、最後の大会で。
最終的な点数は 帝光 111-11 明洸。
キセキの世代は無事に『点揃えゲーム』を達成出来たし、明洸は黒子のお願い通りに『本気』で相手をされた。

帝光優勝。前代未聞の三連覇。

――泣き崩れる黒子。


111-11。
必死で2桁にしようとしたら、紫原の故意の自殺点によってそれが為され、目押しされたスロットのように点数が揃う。
この試合における明洸の努力を全て無駄にする非常に無邪気で悪趣味な行為。
天才のみに許された、天才だからこそ出来る行為。

そもそも、帝光バスケ部は伝統的に相手を舐めたプレイをしている。
地区のバスケ交流戦は、二年と三年が出るとウチが圧勝してしまうから、と一年縛りがあった。帝光バスケ部はそれでも勝つのが当たり前であったからだ。
そんな事をしても勝てる。勝つことが前提。
それが帝光バスケ部。

二年の全中には赤司によって20点のノルマ縛りになり、二年には点取りゲームになり、最後には点揃えゲームとなった。


「――で、それを傍でただ指を咥えて見てたのが私」
「……なんつーか、お前も大概だな」
「好きで見てたわけじゃない。部外者がどうこう言っても、あれじゃあ良くて無視されるか悪くて余計に拗れるかだったし」

目の前で溜息を吐く此奴は、キセキの世代の一人、赤司征十郎の双子の妹、赤司馨。『天才の妹』『赤司家の長女』『同人誌界の先生』など、此奴も中々レパートリー豊富な呼び名を持っている。
本人が述べた通り、馨はキセキたちの傲慢をただ見ていただけだ。そしてその行動を取った理由も理解できなくはない。
けど、それは当時敵対していたチームからすればただの言い訳にしか聞こえないだろう。俺はまだマシな方な筈なのに、胃がムカムカするくらいなのだから。

「まーまー、落ち着け落ち着け。私は身内がキセキの中にいるからどうしてもキセキ贔屓になっちゃうんだよ」
「腹に一物抱えてるのになぁ」
「うっさい、モブ高輪姦本書いてやろうが」
「ごめんなさい」

即行で頭を下げる。
だって○○くんが書く小説ってすっげーリアル感あってヤなんだもん!しょうがないじゃん!

「そもそも、キセキが最終的にあんな風になったのだって当人達以外の原因だって含まれてんだよ」
「は?彼奴等以外?」

そんなこと何て考えたこと無かった為、思わず瞳をパチクリと大きく瞬かせてしまう。
俺達は何時だって挑戦者だったし、天才サマの考えてることなんて分かるかと『そうなった経緯』を考察すること自体、放置していた。
すると、馨は右手の指を立てて話し始める。

「まずひとーつ、一年の頃から指導してくれた先生が倒れてしまったこと。ひとーつ、上の思惑で才能豊かなキセキが特別扱いされ始めたこと」
「……ンなことあったのか?」
「ありましたよー、当時は。雪雪崩みたいにドンドン悪いことが起こったし、雪だるまみたいに重なっちゃったからね」

だから後悔盛り沢山、と何処か悲しげに呟く馨を見て、咄嗟に俺は口を開こうとしたとき、

「あー、フォローはいらない」
「え」

眼前にビシッと止まれと書かれた標識のようなポーズで止められた俺は思わず面食らう。

「後悔も不満は沢山あるけど、やり直せる訳じゃないし。私だって責任あるし」
「え、何で?」
「ただ見てただけっていう極普通の傍観者。見守ってるわけじゃなくて、ひたすら観戦してるだけ。点取りゲームについて知っても怒ることもしなかったし、崩れてくキセキを見てただけ」
「……いや、お前最初に『自分が割って入っても良くて無視、悪くて拗れる』って」
「それは事実だけど。でも、私はそもそもやる気がなかったから。割って入る気がね」
「……」

キセキと敵だった、ただの凡人GかF辺りの俺にはキセキの世代にとても近かった此奴の苦労が全く分からなかった。
でも、見てるだけっつうのも楽じゃないんだと、此奴の表情から察することが出来る。

「本気で戦ったら最初のクォーターで決着が付くよ。本気じゃなくても似たようなモンだし。
 ……あのさぁ、強豪校と弱小校の対決となると、それはもう悲惨なものだよね。弱小チームは端から勝つ気なんて更々無いだろうよ。……ああ、高尾みたいな奴はいない設定で宜しく。てか、高尾達みたいなメンタル持ってる奴の方が少ないんだよ。
 話戻すよ。……それじゃあ、真剣に試合をしている強いチームの方は「何なんだよ」って思うんじゃないか?
 『真剣にするのが馬鹿らしくなる』、みたいな。

 ほら、周りにいる奴らは遊んでるのに自分だけ勉強とか、折角自分で頑張って達成した宿題を他の奴に写させて欲しいって頼まれるとか。
 こっちがいくら全力で挑んだところで、勝つ気のない、やる気がない、さっさとゲームが終わらないかチラチラと時間を確認するだけのチームと試合をしたって、強豪チームは面白くもなんともでしょうよ」

強者の立場の意見を、俺は無言で聞いていた。
俺は弱者だ。でも、今の話に出てた弱小校みたいに諦めたりしない。だけど、バスケをやってる奴が全員俺や先輩達と同じだとは限らない。癪だけど、何回も何回もそんな対応をとられたらやる気だってなくなるだろうと、納得できちまった。それでもやっぱり、ムカつくもんはムカつくけどよ。


でも、何となく今の俺にはこの話の感想を言うにはなれなくて、苦し紛れに別のことを呟いた。

「……黒子の奴、カワイソーだな」
「……可哀相だねぇ」


prev / next

[ back to top ]



×