気まぐれ部屋 | ナノ




本当に、これだけ心底読まなければ良かったと思う本もありません。
何で僕はこれを読んでしまったのでしょうか。
ええ、そうですとも。僕の好奇心のせいでしょうとも。

しかし。しかしですよ。
まさか赤司君の妹である赤司さんが、そんな趣味の持ち主だったなんて誰も想像しないでしょう。出来やしないでしょう。僕はまだ僕自身が手を付けていないジャンルの本だと思ったから貸して欲しいと言ったのに。

ゲッソリしながらも出来る限り何時も通りを装って授業を受けましたが、もう無理です。あの本が僕の鞄に入ってるだけで鳥肌が立ってきます。
もう赤司さんへ返しに行きましょう。

「赤司さん、いますか」

赤司さんのクラスへ行って、扉を開ける。しかし、そこには髪染めをしたのに違和感が全くないあの黒色の髪はありませんでした。
何処へ行ってしまったのでしょうか。

「あの、もしかして黒子くん……?」
「え?」

まさか他人に僕の存在を気付かれるだなんて。
確かに扉を開けて赤司さんを呼ぶという多少目立つ行為をしましたが、こんなにあっさり……
少しばかり落ち込んでいると、このクラスの生徒らしい女子生徒はおずおずと言った様子で続けた。

「あ、あの、火黒本に出てくる黒金くんのモデルの、黒子くん?」
「……はい?」

“かくろぼん”?
“くろがねくん”?
“モデル”?

これは一体、どういうことだ。
僕の知らない単語がポンポンと出てくる。

(――はっ、まさかコレって)

赤司さんから借りたこの本に関する言葉なのでは、と思った瞬間、背後から背中を叩かれて身体が震えてしまう。

「はーいご返却どーもです」
「!」

と同時に、僕の手にあった筈の本は消えている。
……赤司さん?

「ごめんね黒子、ちょっと用事で他のクラスに行ってたんだよ」
「あ。赤司さん」
「やあ古井谷さん、質問中に失礼。こいつあんまりアレについて知らないから、とりあえずそこで勘弁してあげて」
「う……うん」

どういうことですか。
今の会話から察することが出来るのは、つまり、この人も、この本を知っていて、尚かつ僕よりも知識があって、この本をもっている赤司さんと知り合いで、

「……」

酷く、頭が痛いです……

「ギャグ本でアレな要素も少なかったのにコレか。先は長いね」

――先って、一体何の“先”なんですか、赤司さん!


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