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幼年体で召喚されたギルガメッシュは激怒した。いいや嘘だ、それは流石に言い過ぎだった。
それはともあれ、怒っていた。
頬を膨らませて相手を睨みつけていた。
そして――――
「随分と偉くなったね、アデル!」
じわりと涙を滲ませて、アデルを見上げていた。
サーヴァントとして例外なくギルガメッシュにも未来の知識が与えられているものの、本人の意識は変わらない。ウルクの王を継ぐ者として勉学に励んでいる時期を切り取られたギルガメッシュにとって、弟であるアデルは自分の身体の半分にも満たない背格好をしている、小さく真ん丸とした愛らしい存在という認識なのだ。
「こういうこともあるよ、兄上」
ギルガメッシュは怒っていた。
サーヴァントという立場である以上、こういったこともあり得よう。生前とは違うのだから当然だ。しかしそれでもギルガメッシュは不満を露わにしていた。
「まさか、同い年の時はアデルより背が低いだなんて……!」
幼いギルガメッシュと幼いアデル。対峙した二人には、少しばかりではあるが身長差がある。ギルガメッシュが下で、アデルが上だ。
相手が大人の、キャスタークラスで召喚されたアデルが幼いギルガメッシュを見下ろすのは構わなかった。大人と子供なのだから、と気にする必要もない。だが同じ年頃となれば話は別になる。
「兄上はいつも俺に栄養たっぷりのご飯を食べさせてくれてたから、そのお蔭だろうね」
「くっ、やっぱりそれか、それなのか……!」
つまりは、まあ、年の近い兄弟がよく気にする事を、あの英雄王ギルガメッシュ(の子供バージョン)も気にしていた――それだけであった。
「アデルがすくすくと大きく健康に育ったことは嬉しいよ。でも兄として弟に負けるわけには、もっとボクの食事のグレートをあげるべき?当時はあれが最上級だった間違いない、じゃあアデルの食事を下げ、うん、それは無いな。それは無いわー」
脳内シミュレーションを繰り返すが、何度考え直しても今までのやり方以外呑める道はなく。
兄の矜持と弟の待遇が左右に乗った天秤はあっさりと片側に揺れる。
「……見上げればアデルがいる、か。よく考えてみればこれはこれで悪くないね」
星というものは上に在るものだと、手の甲で涙を拭いながらギルガメッシュは前向きになることにした。
「大人になったら同じ目線になるのに、そんなに気にすること?」
「それとこれとは話が違うからね。するよ」
「そっかぁ」
「そろそろ昼食の時間だね。食堂に行こう、アデル」
「手を握りながら?嫌ではないけど」
「うん、大人のボクへの嫌がらせ♥」
「俺と手を繋ぐのを見せるのが嫌がらせ……?まあ、ほどほどにね、兄上」
(キャスターのボクはともかく大人のボクがアデルと喋るとか腹の虫が治まらないし、精々悔しがるがいい)
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