気まぐれ部屋 | ナノ




オレはボンゴレファミリー十代目ボス、沢田綱吉だ。

『人は守りたいものがあると強くなれる』
そうだ。
『君はその典型例だ……綱吉君』
分かってる。
『だから……その……わかるだろ?戦闘員だけじゃ駄目なんだ。君が守りたいと思う非戦闘員も必要なんだよ』
それでも、オレは――――オレは、嫌だった。

ボンゴレリングなんかが争いの火種になって多くの血が流れるのが嫌だった。だから反対意見を押し切って砕いた。砕く前日にタルボさんへそのことを告げると、そうかとだけ短く呟きオレの手元にあった七つのリングに別れの挨拶を述べ、そして去った。

自警団のボンゴレファミリーが血で血を洗う抗争を繰り返すマフィアになったのが嫌だった。元の状態に戻そうにも九代分重なった罪がでかすぎて、肥大化しすぎてしまっていて、未だにボンゴレはマフィアのまま。

皆の笑顔を壊すのが嫌だった。京子ちゃんやハルに本当のことを言えず、イタリアで働いている父の上司の仕事を継ぐのだと嘘を吐いた。かつてのオレは彼女たちの手を握ることなんて早々できなかったけど、オレの今の穢れた拳じゃ彼女たちの手なんて握れない。

次々に襲い掛かる出来事に流されるばかりだった。
流されて流れて、でも重大な決断を強いられて、決断しなくちゃオレどころか皆が危ない目にあってしまうから。
だから骸と戦った。
だからXANXUSと戦った。
戦った結果、皆を守れた。本当に嬉しかった。
守りたいものがあると人は強くなれるという言葉はオレによく当てはまると、自分でもそう思う。守りたいものがなきゃ今頃オレはとっくに死んでた。


『兄さん』


やだな、オレ、兄ちゃんなのに。
なんでこんな時に思い出すのがアイツなんだろ。


『兄さん』


ごめんな、馨。ごめん、ごめんなさい、ごめん。


『ねえ、聞いてよ兄さん』


オレはお兄ちゃん失格だ。お前を守れない。守りたいものが守れない。


『これだけは忘れないで。私はさ――』


小さい頃のオレが守りたかったものはほんとにちっぽけだった。母さんと妹。それだけ。ありきたりでありふれてて、どこにでもいる、ただの一般家庭だった。
今じゃ一大ファミリーのボスとして、守るべき対象は沢山広がった。ファミリー、民、同盟相手、傘下。悪い奴もいるけど良い奴もたくさんいる。面白い人たちがいっぱいいる。みんな死んで欲しくない。


『いつでもいつまでも、何が起ころうと、何をしようと、兄さんの味方だよ』






「分かった――非戦闘員枠として京子ちゃん、ハル、イーピンの三人を連れてこよう」

言葉が途切れたり、つんのめらなかったのは精一杯のオレの意地だった。







拳銃の銃口がこちらに向けられているのが微かに見えた。手筈通りにいけばオレはあの銃弾で死ぬことはない。ただの仮死状態になるだけ。
大人になったオレはとても狡くなった。獄寺くんにも山本にも、一部の人を除いて皆に隠して計画を進めている。
ゴミの掃溜めみたいな世界の中、嘘吐きだらけのマフィアの連中と過ごしていく内にオレは身も心も汚れていった。

勢いよくズガンと脳天に衝撃が走る。
はは、まるで死ぬ気弾を食らったみたいだ。ちょっとだけ懐かしい。そうだ……あの頃は一週間に一度は死ぬ気弾をぶちこまれてパンツ一丁になるのが当たり前だった。ただの露出犯だ。ふざけんな!!って抗議したっけ、最初。馨に見られた時はもう死ぬしかないと絶望したんだよなぁ。
すっごい大変なことばっかで、恥ずかしい思いも苦しい思いも山ほどしたけど……あの頃が一番楽しかった。あー、駄目だ、母さんのハンバーグ食べたい、くそ。


『おにいちゃん、あそぼ!』
『ツっ君、お夕飯が出来るまで○○ちゃんの相手してあげて?』


やべ、食いたすぎて幻覚見えた。
次に目を覚ます事が出来たなら、そこにはきっと待ち望んだ未来がある。
すまない、そして頼んだ、過去のオレ。


「…う……かぁ、さ………まか…せ……」



お前が頑張ってる間、オレはあたたかい夢に浸っているよ。



『うん、ママ!つっくんは馨のおにーちゃんだもん、まかせて!』


オレは沢田家長男、沢田綱吉だ。

せめて夢の中でくらいただのガキでいさせてくれよ、なあ。いいだろ?


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