朝早くの屋上。清廉な空気が辺りに満ちて、清々しい朝を感じさせてくれる。遠くから聞こえる野球部の声もなかなかこの空気に合っていて、少しだけ応援してもいいかななんて気になった。あぁ、流されてるなぁ…


「あ、あの…っ」


目の前にいる女の子が真っ赤な顔で私を見上げる。そう、私は昨日の夕方にこの子に頼まれて早朝にもかかわらず屋上にいるのだった。


「私、先輩のことが好きでっ!一度、階段から落ちそうになった時に助けてもらったことがあって、その時からずっと気になってました!!」


一生懸命自身の想いを告げる女の子はとてもかわいい。普通の男子ならイチコロだろうな。

そう…男子なら。


「…ごめんね」


私は正真正銘の女子である。ね、同性なんだよ。わかってよ。そんな悲しそうな顔しないでオッケー出したくなるじゃん!私ノンケなのに!!


「そう、ですよね…」


しょぼんと肩を落とした女の子の頭に項垂れた耳がはえているように見えて、思わず頭を撫でてしまった。
あ、しまった。


「(えーっと!)…あなたの気持ちは嬉しかったから。そんな悲しそうな顔しないで?」
「っはい!あの、こんな朝早くにありがとうございました!!」


目は潤んでいたけど笑顔になった彼女に安堵の息を吐く。せめて受け取ってくださいと私の手にかわいくラッピングされた袋を押し付けて、彼女は去っていった。


「…まーたもらっちゃったよ」


そんな呟きを漏らすけれど、悪い気は起きない。だって彼女たちが私のために必死にやってくれたことなんだから。無下にするのもためらわれるし。

少し上機嫌で教室に戻るとSHLが始まる直前で、慌てて着席した。と同時に前方と背後からいきなりからまれた。もちろん元ヤンと眼鏡の2人だ。


「ヒャハ!またなんか貰ったのかよ!!」
「はっはっはっ、森川って俺らよりもらってんじゃね?告られる回数も多いし」
「うるさい黙れ。そんなのあんたらより私のが告白しやすいってだけの話でしょ」
「女同士なのにか?」
「その考えは寧ろ逆」
「ヒャハハ、女同士だからこそってか?」
「そういうこと。わかったらもう絡んでくるな変態ども」


そう言い放って窓の外を見ればさすがの2人も静かになることを私は知っている。
そそくさと鞄の中身を机に突っ込んで貰った物の袋を開けると、中から美味しそうなマドレーヌが姿を現した。教卓で話し始めた担任に隠れてこっそり一口戴くと顔が綻ぶ美味しさ。
ふと、一体どんな気持ちでこれを作ったのかきになった。


「…私には到底わからないんだろうな」


恋する気持ちなんて、一生わかることはないんだろう。


小さな呟きは、教室の空気に混ざって消えていった。









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