「それ何て本読んでんだ?」
「…えーと…ラノベですけど」
「ヒャハ!んなことはわかってるって!」


今日も今日とて野球部の皆さんに絡まれてます。本当皆暇人だな。特に哲くん伊佐敷先輩小湊先輩はたしか3年生だったと記憶してるんだけど、勉強は大丈夫なんですか?クラブ推薦ってことですか羨ましい。ってそれはいいとしてなんで皆して私に話しかけに来るかな、大人しく本読んでるのが見えないのか?
ふぅ、と知らずにため息がでたのに気づいてうんざりしていると、教室のドアが開いて見知った顔が姿を現した。


「王子ー!」
「ん?…あ、侑佳」


わざわざ教室の外から恥ずかしい渾名で呼んでくれたのは小学校からの腐れ縁幼馴染みである侑佳。そういえば最新シングル貸すってメールで約束したっけ。もはや自動操縦になっている栞をページの間に挟む作業と鞄に突っ込む動作を平行して行った後、その中から目的の袋を取り出してドアへ駆け寄った。


「はい、言ってたやつ」
「ありがとー!さすがだね本当お前王子だよ!!」
「いいって、腐れ縁のよしみでしょ?っていうか王子言うな」


侑佳のせいで中学時代の嫌な記憶が蘇る。中学在学中にいったい何回告白されたか…女の子に。


「いいじゃん渾名くらいぃ。…それにしても、噂は本当だったんだね!」
「は?噂?」
「そう噂。王子が野球部員を次々と虜にして囲ってるって「待ってなにその根も葉もない噂」まぁ美形がこんなに集まってたら噂の1つや2つはたつって!」
「え、待ってまさか他にも噂が…ってちょっとぉ!?」


私の言葉も聞かないままにCDを抱えた侑佳は楽しそうに自分の教室に帰っていった。置き土産のように「あ、大丈夫私は王子一筋だからー」とか言ってましたが侑佳さん!?呆然と見送るしかなかった私はとりあえずなんとか正気に戻って自分の席まで帰る。何その噂…まじあり得ないでしょ。
そういえばみんなは噂について知ってたのかな、なんて疑問にやっとたどり着いて席についてから皆を見回…そうとする前に皆が私を見つめていた。


「…なに、」
「はっはっは…何お前、渾名王子なの?」
「え?…あぁ、うん。皆そう呼んでるね」


中学時代のあの忌まわしい事件からね。いや、事件ってほどのものじゃないけど。


「たしか怜が中学1年の頃からだったな」


ここでいらんことを教えるのが天然幼馴染みの哲くんである。昔から変わらないね、その無害そうな顔で他人を窮地に陥らせる癖!!


「へえ…なんでそんなことになったの?」
「それ小湊先輩以下皆に発表しなきゃいけません?」


絶対嫌だ、口が裂けても言うもんか。そんな私の覚悟を再度哲くんが打ち崩した。


「たしか…体育祭の時、リレーで足を挫いた仲間を横抱きのままアンカーの役目を果たして走りきって1位を取った後、そのまま順位順に並ばなければいけなかったのに無視してその仲間の女子を仮設保健室まで連れて走った時からだったよな?」
「ちょ、哲くん!っていうかよくそんなに覚えてるね!?」


さすが、天然は本当に侮れない。これで悪意がないんだからたちがわるいんだよ。


「へぇ…」
「…なんですか、変態眼鏡野郎」
「いや、別になんでもねぇよ?王子」


ニヤニヤ楽しげに笑う御幸と倉持を見ていると自然に拳に力が籠っていく。こいつら…一発ずつ殴ってやろうか…!


「はい、ストーップ」
「え!?」


と、突然背後から握っていた拳をほどかれて、頭を撫でられた。いきなりのことでなにも構えてなかったもんだからびっくりしてしまった。こんなこと恥ずかしげもなくやるとか、


「こっ小湊先輩!?」
「はいはい照れない照れない」


楽しげに頭を撫でるその手をとりあえず叩いて払う。いやいやいや照れてないし。っていうか突然何事。


「大丈夫だよ、怜ちゃんは俺のお姫様だから」
「うわ…よくそんな台詞を素面で言えますね」


あの伊佐敷先輩さえ引いてますよ?


「やっぱりときめかないかー」
「…当たり前でしょう」


どんだけ恥ずかしい人なんですか、あなたは。




(頬が少し熱い気がするのは、そんなこと初めて言われたからだ。そうに決まってる)







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