Jと高松
ジャンを縛ってみた。何故か笑っている。どうしたのか聞くと、『縛られるのなんて初めてだから楽しくて』と心底嬉しそうな声で答えられた。危機感というものは感じないのだろうか。 ‐‐http://shindanmaker.com/164113
「楽しそうですねぇ、アンタ」
「はは。案外良いね、これ。なんか目覚めそう」
「やめてください、迷惑ですから」
穏やかに諭しながら高松は冷えた氷を抱くような心地だった。どうせお前の記憶は目覚めることなどないくせに。とうに目覚めを放棄した男が憎くないと言えば嘘になった。
「おぉい高松、そろそろほどいてよ」
「ヤですよ」
「ええー!」
大げさに驚いてみせる男を眺めながら、高松はすでに胸の内ではカウントダウンを開始していた。奴のこの記憶も溶けるまで、あと幾秒であろうか。暢気にヒデーよなどと零す男に、高松は笑みを覗かせる。楽しいならいいじゃないですか、ずっとそうしてなさいよ。
「……あれ、これ縛ったの高松?」
「知りませんよ」
ひでぇと男はまた繰り返す。縄を確かめて、彼は息を吐いた。高松は、既視感に吐き気がした。
「…ああ、しっかし縛られんのなんか初めてかもなあ」
「そりゃ良かったですねぇ」
初めてなどと言って、奴はそれが初めてであることにもっと危機感を持つべきなのだ。恐れを抱くべきなのだ。痛ましく思うべきなのだ。
彼のした行為をなぞらえたところで虚しくなるばかりだというのに、繰り返してしまう自分も大概自虐体質になってしまったのかもしれない。
6th.Nov.2011
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