シングン


 「なんでふたりなの」と言ったのはグンマだったか。
 シンタローにしても同じことを思っていたので、その辺りはあやふやだが、「知るかよ」と返した気がするのでグンマだったのだろう。
「……海だな」
 見ればわかる、ともグンマが揶揄しなかったのは、他に何も言えることがなかったからだろう。
「シンちゃん、懐かしい?」
「べつに」
 ぶっきらぼうな返答が、静かな海辺に漂った。
 夜の帳の落ちた冬の海辺には、ふたりの声と、やはり囁くような波の音しかないようだ。今は遠くなったあの島での日々の内で、こんなふうに静かな海の音を聞いた日はあったのだろうか。考えても、思い出せなかった。暗い砂浜を、当て所もなく二人は歩みを進める。足跡は二人分で、他にはない。ふうん、とつまらなそうに返したグンマは、ふいに立ち止まって海に向く。
「海かあ」
 しゃがみ込んで覗いた水面はやはり真っ暗だった。
「なんにも見えないね」
 へらりと浮かべられた笑みが夜のなかに溶けていく。当たり前だ。月明かりも無いのに、何かが見えるわけもない。そういえば、グンマの顔もほとんど輪郭しか見えていない。それでも、こんなバカげたことを確かめてへらへらと笑っていられるのは、従兄弟であるとシンタローは断定する。
 静かで、何もない海に、ふたりきり、突然放り出されて。
 こういう暢気さに、多少なりとも救われないと言えば嘘になる。
「あ。ね? シンちゃんだよね」
 そういや、暗くて見えないけど、とあちらは今更こちらを訝しむ。こういう鈍さには、口を動かすのも億劫になる。
「……」
「いや、黙んないでよ。はあ……シンちゃんだな」
 うん、と適当に決めつけて結局また歩き出すいいかげんさを何と呼ぶのか。喉の奥をくつくつと鳴らして、シンタローも再び歩き出す。




イベントアフターお題でした


5th.May.2020

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