太刀川と出水
おれたちは、強いから一緒に居る。
太刀川さんのことは、もちろん嫌いじゃない。実戦の連携は勿論、オフのときだってとくに厳しくもなくノリが悪くもなくやりやすいし、その強さを認めていないはずもない。
しかし、けっしてあの人に対する敬意や好意というのは、おれが同じ隊に居る理由ではなかった。例えば、鈴鳴第一のように隊長を慕って守りたいだとか、風間隊のように隊長を尊敬して役に立ちたいだとか。そういう思いとおれは無縁だった。
端的に言えば、である。太刀川さんが強くて、おれも強いから。勝つために、おれたちは同じ隊に居る。
おれを引き入れた理由だって、太刀川さんはまっすぐに、勝つためだと言った。
「お前が居れば、A級一位になれる」
まだ入隊したばかりのおれをつかまえた太刀川さんはそう言って、入隊届の前におれを座らせた。早く書け、とじりじりと急かすその人を、おれはまださっき初めて会った押しの強い人だとしか思っていなかった。
「えーと、太刀川さん? A級で一番になって、どうすんすか」
単純に、この執念ともつかない熱意には、何か目的があるのだろうかと思って聞いた。強い隊を組むことで街を守りたいだとか、近界に行く必要があるだとか、あるいは勲功を挙げて潤いたいだとか。そんな理由くらいは、あるのだろうと。
「強いやつと戦う」
「は?」
太刀川さんは、さも当然というような顔で言い切ったが、おれにはまず意味がわからなかった。強くなってどうするんですか?の問いに対する答えが、強いやつと戦う。いや、答えと問いがあべこべなんじゃないか。強いやつと戦うのは、何かの目的の過程じゃないのか。それを避けられないから、仕方なく強くなるんじゃないのか、普通。
強いやつと戦うためだけに、強くなるなんて。
「おかしいですよ、あんた」
「お前も俺の見込みどおりみたいで安心したぞ」
おれの書いた紙切れを満足そうに奪い取って笑ったので、おれはここに居た。
6th.Jan.2019
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