村来

 きらきらひかるそれを見つめるあなたを盗み見る。

 あ、と小さく息を吐いた来馬先輩の視線を追ったオレは、ああ、と息を吐いて、彼に視線を戻す。緩く微笑んだその瞳に、ささやかに胸が詰まるような思いが押し寄せた。
 それから、思わずオレが呟こうとした言葉は吐き出されることなく、後から来た太一の歓声に遮られた。
「うわー! ここ、こんなにイルミネーションするんすねー! すげー!」
 太一の後ろに、思い切り眉を吊り上げている今が見えた。ああ、マズいぞ、太一。
「太一! ハシャがない走らない騒がない!」
「ひぇー……今先輩、だって見てくださいよ」
 それから「すごくないっすか!」に重なるように、「すごくてもあんたは人より気をつけなさい!」電飾に化粧された木々の景色に、日常が溶け込んでいく。まあまあ、といつものように眉尻を下げる来馬先輩とは、多分もう目が合うことはない。つい先ほど、一瞬だけ存在した空気は夢のようにかき消えてしまったが、べつに、良いのだ。
 いつもどおりの温かい賑やかな空気。真冬の外気すら幾らか和らぐような居心地の良さを、疎ましく思うはずもない。
 ぼんやりとしているうちに、どう話が転んだのか来馬先輩が太一と今にスマホを向けていた。はい、撮るよ〜とやはりいつもの優しい声が降る。イルミネーションを施された木々の前で太一が妙なポーズを取り、今はそれを抑え込むようにして掴みながらぎこちない笑みを浮かべている。
 オレは、来馬先輩を見る。色とりどりの光が、色素の薄い肌を照らしている。また、さっき喉の奥に飲み込まれた声を、胸の内にしまい込んだ。
 太一たちにピントを合わせるために液晶画面に集中している先輩は、きっとオレの視線になど気付かない。パシャ、とスマホのシャッターを切る音。撮れたよ、と来馬先輩が声をかける間にも、今が何やら太一を咎める声が聞こえた。ああ、また来馬先輩がいつもどおりに今を諌めるのだろうな、とオレは思っていた。
 パシャ、とまたシャッターを切る音。
「え」
「あはは、ぼーっとしてた?」
 オレにスマホを向けたまま、来馬先輩は珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そ、うですね……すみません」
「どうして鋼が謝るの」
 イルミネーションに照らされた瞳が弓なりに細められる。愉しげなその色に、オレはまた胸が詰まる。太一と今はこちらに目をくれる余裕もなく何やら言い合っているらしい。いまなら、きっと言える。すぐに言えばいいのに、オレの喉は急に壊れたみたいにうまく鳴らない。
「きれいだよね」
 来馬先輩が、オレの言葉を奪ったみたいだった。
「あ……」
「え? 違う? さっきも、目が合った気がして」
 気のせいだったら、ちょっと恥ずかしいなと笑う顔に差した朱は、きっとイルミネーションのせいではない。
「……違いません」
 きれいですね、と今度こそ、取り戻した声で絞り出す。どうか、オレの上にも赤いイルミネーションがあるといいのだけれども。



6th.Jan.2019

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