2
冷たい、寒い。そう頭の中で感じ私は目を開いた。そこは石の壁に囲まれた小さな穴の中。冷たさは私の半身が水に浸かっているからだろう。
上を見れば垂れ下がっている縄がある。もしかしてここは井戸の中だろうか?あれだ、髪の長い白の着物を着た女の人が出てくる映画みたいなやつ。
ぎゅっと縄を握って引っ張って。強度を確かめる。うん。これならたぶん私一人分の体重を支えてくれそう。
こんなことをするのは小学校での遊具以来だけどなんとかその感覚を取り戻しつつよじ登っていく。
手がようやく井戸の外に辿り着いた。ひょこっと頭を出してみればそこには着物をいた人。
女?男?
そんなことこの際どっちだって構わない。
「えっと、どこ、ですか?ここは。」
えへへと苦笑いを浮かべながら聞けば、その人は目を見開いて顔を青ざめた。そりゃそうよ、普通に考えれば私リ○グそのものなんだから。
「お前、何者だ。どこの間者だ?」
うん?患者?え、ここ病院?どこの患者ってことは精神科とか外科とかそういう話?
「患者?違います、私病人じゃありません。」
そう言うと、そっちのかんじゃじゃないと頭を抱えだした。ごめんなさい私馬鹿だからそれ以外かんじゃなんて思いつきません。
「よいしょ…」
先ほどまで井戸に入ったままだった体を外に出し、漸く地面についた。そこ!年寄りみたいだとか言わない!
言いたくなくても勝手に言ってるんだよ!いや…それが一番ダメなパターンか、もう諦めなくちゃいけないのね…。
「…残念だが、俺に足を見せてもどうも思わんぞ。そういうのは新八みたいな阿呆に見せろ。
きっと興奮してご希望通り襲ってくれる。」
お、襲う!?
何言ってるのこの人!?
「え!?ななな、何言ってるんですか!この格好は普通の制服ですよ、今時みんなこういう服着てるし…それにまだこれはマシなほうです!
膝上15センチですよ!他のみんなは下着が見えちゃうんじゃないか、ってくらい短いのに…!」
膝上15センチがベストだって前テレビであってたからちゃんとそうなるようにしたんだもんねー!
短すぎても長すぎても駄目だし。短いとわたしの醜い御足が見えちゃうじゃないかこのやろー、逆に長いと真面目って思われちゃうし。
だから中間の膝上15センチ!いつか絶対領域なんてできるような足がほしいぜ!
「…そういえばお前はどうしてここにいるんだ?」
「がく、知りませんよ!こっちが聞きたいくらいなのに!私が学校から帰ってたらトラックが突っ込んできて…ってそうよ!
私トラックに轢かれたんだ!ということは…ここ天国ですか?」
いきなり話がとんでわたしびっくりしちゃったよ、この人天然?いや、そんなことよりももしここが天国だったら…。
私まだまだやりたいことがいっぱいあったのに…。
31のアイス全部食べてないし、ミスドの新商品食べてないし、まだ日本一周してないし、世界一周だってしてないのに…。
いやまぁ最後二つは今思いついただけなんだけど。
「天国に行きたいなら今ここで殺してやっても構わないぞ、奇怪な女。」
嫌です死にたくありませんと言って私は頭を横に振り回した。
そんな私を見て溜息をつかれてしまったけど死なずに済むならなんでもやってやる!
「……しょうがない、本当に知らないようなら教えてやる。ここは新選組の屯所だ。わかったか?奇怪な女。」
「私、奇怪な女って名前じゃありません!廻谷心…って新選組!?え、それってあの!?」
嘘嘘!新選組!?
それって幕末じゃない!あぁ通りでこの人着物を着てるのね、納得納得。
って違う違う!現実逃避してる場合でも感傷に浸ってる場合でもないわ!
「そんな足を出して井戸から出てきた女を奇怪と言わずして何というのだ。お前が言うあのというのがどの新選組なのかは知らないが、まぁ新選組はここ日の本には一つしかないだろう。」
「見かけによらず酷いですね」
私はじとりとした目で見ながら言ってやった。けれどそんなわたしの嫌味いっぱいの目線は効果を為さなかった。綺麗な顔をしているのに性格は最悪みたい、鼻で笑われたわ。
「よし奇怪な女、お前を兄に会わせてやる。俺は所詮ここの使用人みたいなものだからな、決定権は俺にはない。
だからお前を兄もとに連れて行きお前の今後を決めてもらう。あ、死は覚悟しておけよ。」
どうしよう、今この人、死は覚悟しておけよって言ったよね?だから私まだ死にたくないんだってば!!
その者腹黒につき
本当に残念、王子様かと思ったのにな。
12月20日 改訂
prev/next