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「つまり千鶴は鬼の血を持っていて、あんたはその血を持つ嫁を捜しにわざわざここまで来たと。
難儀なもんだな!だがそれとこれとは話が別だ。千鶴は渡さねえ、千鶴は今じゃ新選組の仲間だしお前よりもいい男のとこへ嫁がせてやるつもりだからな。」
箪笥を持ち上げた後、暫くの間男と睨み合いが続いていた。
そのときがらりと襖が開いて男の仲間が部屋に戻ってきた。
やばい……総司たちをやった奴ら三人に囲まれればこっちが不利だ。
そう考えながら先ほど部屋に入ってきた奴らを観察してみる。
赤髪のおっちゃんと南蛮の武器を下げた男。
赤髪のおっちゃんを見ていると、俺は兄と同じ雰囲気を感じた。
こいつ実はいい奴なのではと淡い期待を胸にした俺は金髪との睨み合いをやめておっちゃんに近寄った。
金髪男より兄にそっくりな赤髪のおっちゃんのほうが気になるに決まっている。
もう一人は目つきが悪く、俺を見て風間が女を連れてきたとかほざいたからとりあえず蹴りを入れておいた。
今更だが金髪男の名前が判明した、風間千景というらしい。
名前を聞いたところで俺の興味が湧くはずはなく、へーっと棒読みで返しておいた。
兄に似たおっちゃんの名前は天霧さん。
天霧さんと呼んでいいか問えば優しい笑顔を俺に向け、どうぞとこれまた優しい声で言ってくれた。
この人が敵なんて信じられない。
その後なんだか俺は嬉しくなって俺は天霧さんと名前を連呼していた。
すると頭を撫でて金平糖をくれた。
そこから酒も入り、天霧さんからここにくる経緯なんかを聞く。
時々俺の嫁になれ発言が聞こえたりしたが無視だ。
「おっと、そろそろ戻らねえと心配されるな。
俺は新選組の雑用係であって隊士じゃねぇから御法度は関係ねぇのに兄上達は過保護過ぎるんだよ…。」
「泣いていた原因はなんだ?」
立ち上がり腰を伸ばす俺を見上げる風間。
その風間の言葉でハッと思い出した、俺は泣いていたんだ。
何年も泣いていなかった俺があれくらいで泣くなんて、よくよく考えてみれば馬鹿みたいな話だ。
「泣いてねぇよ、雨で身体中びしょ濡れだっただけだ。」
心配なんてしてねぇだろうな……俺が帰ってないことにも気づいてないかもしれない。
みんなが俺のことを忘れても戻らなければ……あそこはまだ俺の家だから。
「今日は美味い酒に免じて兄上達に天霧さん達のことは言わねぇ。
今日のことはみんなには秘密だ、次会ったときは初対面ってことにしてくれ。」
じゃあなと告げて俺は出て行こうとした。
だけどいきなり腕を掴まれ引っ張られ……。
開けた襖が遠ざかる。
酒で力が入らない俺は引っ張られるがまま後ろに足を下げて振り返ろうとしたとき、下顎を掴まれ口に柔らかい感触があたる。
酔いは一瞬にして覚めた。
俺は目を見開き、情報を頭の中に叩き込んでいく。
金髪、高い背、でかい手、猫みたいなつり目。
誰かわかったときには唇は離れ、掴まれていた手も顎も解放された。
「か、ざま…!てめぇよくも!!」
悔しいが俺の顔は今真っ赤だ。
それがよかったのかニヤニヤと笑い、さっきまで俺の唇に触れていた唇を妖艶に舐める。
一応顔はいいからそれはそれで絵になる光景であった。
「また泣くのならば俺のところに来い。」
「っ〜!俺は武士の子だ!泣くわけねぇだろ!」
唇の感触が消えない
なんであんな奴に顔赤くしてんだよ!俺の馬鹿野郎!!
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