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俺は夢を見ているのだろうか?
あれだけ警戒していた心をみんなが受け入れている。
特に総司の変わりようはあり得ないくらいにおかしい。
「おはよう心ちゃん、今日も可愛いね。」
あの総司が俺以外の人間に初めて可愛いと言った。
今までどんな美人な女に会っても可愛いなんて発したことがない総司が…!
ようやく女に興味を持ったかと内心大喜びだ。
千鶴も心に気を使ってくれている。
女二人が仲良く話をする光景はなんとも微笑ましかった。
いいことだ、とうんうん頷いてみる。
だが本音を言ってしまえば、仕事が減ると思った。
それをそのまま言えばみんなに悪いから黙っておくことにする。
「みんな昨日とは大違いだな。心が打ち解けられて嬉しいよ。」
「昨日みんなで話し合ったんです。なまえさんが信用しているなら大丈夫だって。」
千鶴に近寄り話しかけるとなんとも嬉しい言葉をもらった。
そうか、みんなそこまで俺のことを信用してくれているんだな。
「あ、なまえさん!」
総司を初めいろいろなやつに囲まれていた心が俺に気づいた。
とりあえず手を振ってみれば機嫌がいいのかブンブン腕を振り回している。
なんだろう……同じくらいの年のはずだが気分は親と子だ。
遊んでいる子供を見守る親、うんやっぱりそれ以外に思いつかない。
千鶴が俺から離れ、心に駆け寄った。
まだ話したかったんだが……まぁ女と話す機会なんざめったにないだろうし…いっか。
「仲がよいというのは美しいな、そう思わんか?」
「っ…兄上、いきなり背後に現れるのはやめてください。危うく殴るところでした。」
驚きのあまり、とりあえず顔を殴ろうと拳を動かしたが兄と知ってすんでのところで止めた。
目の前に拳があるというのに兄は眉一つ動かさない兄は恐ろしい。
「まるでなまえと巡谷くんの位置が変わったようだな。」
「?兄上それってどういう意味だ…?」
心と俺の位置が変わった?
いや、そんなはずはない。
第一俺の位置とは何だ?雑用という役割か?近藤勇の弟か?
「昨日まで総司や平助、いろんな奴らに囲まれていたのは………なまえだろう?」
「っ!」
ああ…あの光景に違和感があったのは心を警戒していたみんながいきなり心と仲良くなったからだけじゃない。
今、俺がここでみんなの見える場所にいるのに今日俺が話したのは千鶴と兄の二人だけじゃないか。
総司の可愛いという言葉は俺だけのはずだ。
左之さんに撫でられるのは俺だけのはずだ。
平助に腕を組まれるのは俺だけのはずだ。
一くんが頬を赤く染めるのは俺と話すときだけのはずだ。
いつもは面倒だった彼らの行為がたった1日離れているだけでこんなにも苦しくて悲しいだなんて…。
「なまえはあの中に入らないのか。」
「入らないわけじゃない、入れないんだ…。」
兄に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
兄がきょとんとした表情を俺に向け、もう一度聞き直そうと口を開く。
「…なぁ兄上、」
俺はこの黒い気持ちを知られたくなくて、兄より先に声を出した。
茶でも飲まないか?
何かで紛らわさないと気が狂いそうだ。
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