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「なまえさーん、終わりましたー!」


千鶴の部屋から聞こえた大きな声。
俺嫁にもらうならあんなのじゃなくてもっといい女にしたいな…。


がらりと戸を開けて、中を見れば千鶴と女がいた。

「ふむ、馬子にも衣装というやつだな。さすが千鶴。」


ありがとうございますと千鶴は俺に頭を下げた。
やっぱり千鶴は可愛いな、と思いながら俺は千鶴の頭を撫でた。
すると千鶴は顔を赤く染めて黙り込んでしまう。

うん?嫌だっただろうか?


「さてと心、案内するからついてこい。俺晩飯の手伝いもあるし、早めに済ませたいから。」



元気よく挨拶をする女。
こいつ性別間違えて生まれてきたな絶対。



「ここが井戸、顔洗ったりするときはここに来い。洗濯は自分でしろよ。
自分の部屋も自分で掃除しろ、あと働かざる者食うべからずだ。やれることはきちんとやれ。」

「ここって掃除機とか洗濯機とかありませんよね……。」


「ここはお前がいた世界ではないからそんな可笑しな物はない。あと夜は出歩くなよ、絶対に!」


最後のほうを強調して言えば、びくりと肩を震わせわかりましたと返事をした。
アレは見ない、関わらない、そのほうがこの女のためだからな。


「なまえ…」


女に他のことを説明していると後ろから声がかかった。
振り返り誰かを確かめる。

そこにいたのは爛々とした目を向ける総司だった。
なんだ?怒っているのか?


「総司、あぁ…紹介するよこいつは廻谷心って言って俺が世話することになったんだ。」

「よ、よろしくお願いします…」


総司の怒りを読み取ったのか、心は体を震わせて俺の背中に隠れてしまった。
これだと総司の第一印象は最悪だな。


「総司が何に対して怒っているのかは知らないが失礼だぞ。」

「僕は初対面の人間に対しては大体酷いと思うんだけどな。特にこういう女は。」


嗚呼相当来てるなこれは。
ったく総司を怒らせたのはどこの誰だよ…。

こいつ怒ると面倒なんだよ、殺人衝動がいつもの倍になるんだから…。
今日一番隊は巡察入っていただろうか?
入ってたら災難だな、会う人みんな殺されてしまう。


「はぁ…総司、心が怯えてるから殺気を出すのはやめてくれ…。」


「……ねぇ今、その女のこと名前で呼んだ?呼んだよね?」

「?名前で呼んでくれと五月蠅かったからな、それがどうかしたのか?」


なんで名前で呼んだことをそんなに気にするんだ?
どうしたことか総司の殺気は減るどころか増す一方だ。

うーん……どうしたものか…。


「ねぇ心さん?君どこから来たの?どっかの間者とかじゃないの?」


「……未来から来ました…、えっとかんじゃってさっきもなまえさんに言われたんですけど、それなんですか?」


心が答えた瞬間ぴたっと総司は動きを止め、次には大声を上げて笑い始める。
左之さん達に聞いた百物語よりもずっと怖い気がする…。
総司がここまで笑うなんてそうそうないって、誰か俺を助けてくれ…!


「未来?近藤さんから聞いてはいたけど本当にそう答えるんだね、ごめん、僕は二人みたいに優しくもないから君なんて信じないよ。」


「総司!そういう言い方は…」

「なまえも近藤さんも、いつも甘いんだよ。もう少し疑ったら?」


総司はそう言い残して去って行った。
殺気の元が消えて安心したのか、心はそこに座り込んでしまった。

「悪い、きっと虫の居所が悪かったんだろう…。平助や左之さんに会えばきっと仲良くなってくれると思うぞ。」

「大丈夫、です…信じてくれるほうが珍しいですから。」


無理して笑う心。
平助や左之さんは女に優しいし、大丈夫だろう。
千鶴に会ったときあの二人は優しかったから。

それに平助や千鶴とは年も近いだろうからきっといい友達になれるはずだ。


「おっと、そろそろ晩飯手伝いに行かなくちゃ。部屋まで送る、晩飯ができたら呼ぶからな。」


「はい、わかりました…」


総司が現れたことで一瞬で心はおとなしくなった。
やはりそれほど怖かったんだろうな…。



慣れれば変わるだろう



けれどそんな保証はどこにもない。







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