SUMMER VACATION!−13

亡霊の去ったポンプ室に静寂が訪れた。消えた女性の霊は再び姿を現すことはない。彼女は愛する者の存在を思い出し、ようやっと天に召された。魂が解放されたのだ。

「エリナちゃんもそうだったけど、悪霊になっちゃった人は何か、生前に大切にしていた物を手にすると自分のことを思い出すんだね…」
「それが、孤独の中で自分を支えてくれる唯一だったんだろう」
「うん。できればもう、そんな悲しい霊には出て来てほしくないけど…」

女性の霊が消えた空間を眺めて、わらしは呟いた。それから一息つくと、気を取り直してポンプ室の探索を開始した。まずは部屋の奥にある照明スイッチを入れる。カチ、という音がして部屋の中が明るく映し出される。
室内には奥に排出用のポンプがある他、壁沿いには木箱やパラソルがしまわれており、真ん中は広い空間になっていた。備品に関しては先程いた部屋と変わらなかったので、まずは目の前のポンプに向かう。

「大きいね、これ」

排水管やポンプにはバルブやレバーが幾つか付属し、これらを動かすことによってポンプは作動するらしい。

「操作方法は……貼ってあるが、水に濡れて後半が読めない」

すぐ横の壁にはポンプを作動させる為の手順が箇条書きで載っていたが、あいにく紙はふやけ途中からインクが滲んでしまっていた。かろうじて、排水管の端に付いている小さなバルブとポンプに付いている大きなバルブを回すことだけが読み取れた。

「とりあえず、その二つだけでも回してみようよ」
「…そうだな」

あまり考えずに行動に移す癖があるわらしは、遊作の同意を得られるとさっさと小さなバルブを回した。バルブは思ったよりも固かったが、何とか回し終えると排水管の中を水が通る音が響いた。規模が規模なので結構大きな音だ。
続いて遊作もポンプに付いている大きなバルブに手を伸ばす。かなり上の方に付いていたので、わらしでは届かない位置にあった。

「いけそう?」
「少し硬いが…問題、ない」

ぐっと力を込めてバルブを回す。と、すぐにそのポンプにも水が流れ込む音が聞こえた。恐らく正しい手順で動かせば、水も順次排水される仕組みになっているのだろう。
残る工程は二つ。怪しいのは、ポンプの機械に付いている小さなスイッチと、その横にあるレバーだ。

「どっちが先だ?」
「わかんないけど、ここまで来たら間違えても大丈夫なんじゃないかな」

言いながら、ぐい、とレバーを引く。しかし何も起こらずにレバーは定位置に戻ってしまった。はずれらしい。ならば、と今度はスイッチを押してみる。すると先程同様に水の移動する音がして、ポンプ装置が作動したのか連続するモーター音が響き始めた。こうなると止めたくても止められない。
遊作は耳を塞いでしまったわらしに代わり、横にあるレバーを引いた。途端、ゴウンゴウンと今まで以上に大きい音が鳴り、勢い良く水の流れていく音が続いた。これで無事プールの水を排出できたらしい。

「たぶん、これで良いんだと思うけど…! 凄い音だね…!」
「一度上がって確認してみよう…!」

二人は声を大きくして話し合い、騒音の鳴り響くポンプ室から出ると梯子を登ってデッキテラスへと戻った。外は多少陽が傾いているとはいえまだまだ明るい。プールの扉を開け中に入る。それまで穏やかだった水面は、ポンプの影響を受けて徐々にだが下がっているようだった。

「問題ないな」
「うん」

ポンプが正常に働いていることを確認して、二人はプールサイドを歩いた。水が完全に抜けるまではまだ時間がある。オスカーの言う赤い月が出るのも夜だ。話し合った結果、二人は先にカジノに向かうことにした。

「引換券が二枚あるから、チップは全部で65枚になるね」
「元手を増やす方法はスロットかルーレットだったな。スロットは完全に確率機のはずだから、まだ可能性が高いのはルーレットの方か」
「遊作くん、そういう駆け引き上手そうだよね」
「どうかな」

そんな会話をしながらロッカールームに続く扉に手を掛ける。が、ドアノブを回した瞬間遊作の表情が変わった。

「遊作くん?」

驚きとも緊張とも思える顔をする遊作にわらしが首を傾げる。遊作は何度かドアノブを回してみるものの、そこに手ごたえはなく固い感触だけが残った。まさか、と状況を察したわらしの前で静かに口を開く。

「……開かない」
「そんな…っ!」
「一体誰が…、いや、それよりもあっちの扉も確認しよう」
「う、うん」

男性用ロッカーの扉を諦め、女性用ロッカーの扉へと向かう。しかしこちらも鍵が掛けられていて、いくら力を入れてもノブが回ることはなかった。閉じ込められたのである。

「何で…、さっきは普通に通れたのに…」
「またヘンリーの仕業なのか? それとも他に何か理由があるのか…」
「ねぇ、あっちは? スタッフルームの扉は開かないのかな」

わらしの提案で、遊作はプールサイドとスタッフルームを隔てている低い壁を乗り越えそちらの扉も確認したが、やはり鍵が掛かっている。いくら回そうにも回らず、内側からはどうしようもなかった。

「完全に閉じ込められたな…」

険しい顔をする遊作。プールからは三つの扉以外で通路に戻ることは出来ない。他に調べられる場所もない。お手上げだった。
仕方なく二人はテラスへと戻り、設置してあるビーチチェアにそれぞれ腰掛けた。日差しがまだ強かったのでチェアの間にパラソルを置いて日よけを作る。日陰になった場所で顔を合わせ話し合った。

「……とりあえず、時間が経つのを待つか。医務室の時みたいに時間が関係して何かが起こるかもしれない」
「それって、たぶん赤い月……だよね」

ちらりと壁際に目線をやれば、オスカーは相変わらず本に夢中になって二人には目もくれなかった。彼の未練とは一体何なんだろうか。
遊作も頷いて青い空を見た。

「夜になるまで時間がある。今のうちに休んでおこう」
「うん…」

わらしは遊作に倣って、ビーチチェアに体を預けた。パラソルのおかげで直射日光は避けられているがやはり明るい。こんな中で横になったところで休めるとは思わなかった。リゾート気分でもないので余計に。

(一体いつまでこの船にいるんだろう…)

先行きの見えない不安を抱きながら瞼を閉じる。横になりながら、思い出すのは遊作と共にはしゃいだビーチのことだった。





わらしが目を覚ました時、空は既に暗く染まっていた。黒い背景にはまん丸の月と煌めく星々が散らばり、照明ひとつない夜空を明るく彩っている。その中で、時折白い光が細い糸のように現れては消えた。ひとつ、またひとつと。
そんな幻想的な光景をぼんやりと眺めていたわらしは、夜空を走る4つ目の光が消えた所でようやく意識を取り戻した。慌てて体を起こすと、隣のチェアに座っている遊作は既に起きて上体を起こしていた。わらしが目覚めたことを知ると、穏やかな表情で声を掛ける。

「おはよう」
「おは、よ…」
「そろそろ声を掛けるか迷ってた」
「私……眠っちゃってたんだ」
「疲れてたんだろう。無理はするな」

遊作の気遣いに「大丈夫」と答え、わらしは辺りを見回した。外はすっかり夜になっている。照明の類はないが、先程から見えている夜空が想像以上に明るく、二人の姿もぼんやりと認識できた。オスカーの姿は遠すぎて見えない。

「パラソル…、遊作くんが片付けてくれたの?」
「あぁ。ちょうど星空が綺麗だったからな」
「うん…。すごい、ね、これ。流星群かな…?」

二人の頭上で星が流れていく。ひとつ、またひとつ。流れ星は夜の空を駆け巡り、その命を燃やしながら輝く。白い光が尽きるまでの僅かな時間に人は願いを託し祈る。自分の為に。誰かの為に。愛する者の為に。そっと。

いくら流星群だからと言って、こんなに大量の星が流れるのは滅多に見られるものではない。この世界が特別なのか、今日という日が特別なのか。
わらしはじんわりと心の底が温かくなるのを感じた。星々は絶え間なく夜空のカーテンを彩り、幻想的な雰囲気に包まれる。死と隣り合わせのこの世界に来て唯一、良かったと思える瞬間だった。



「……こっちに来ないか?」

しばらくして、遊作が言った。優しい眼差しの奥に獣のような炎を宿していた。二人の間にある情緒の揺らぎを敏感に感じ取りながら、わらしは静かに席を立った。
隣のチェアまでは二、三歩足を動かせばすぐ届く距離にある。その気になれば遊作が動く方が簡単だ。それでも敢えて遊作がそう訊いたのは、わらしの気持ちを尊重する為である。
ゆったりとした足取りで距離を縮める。かがみこみながら手を伸ばせば、わらしより幾分か逞しい腕が受け止めた。肩を抱かれて膝の上に座らされる。細い腕がするりと背中に回ると同時に、顔を寄せられ口付けられた。はぅ、と小さな息が漏れる。

「遊作くん……好き」

わらしの口からは自然と愛の言葉が溢れ出した。まだ少し緊張しているその小さな唇に何度も食らいつきながら、遊作もまた同じ言葉を返す。「好きだ、わらし」熱を孕んだ声が耳をくすぐる度にわらしの体は震えた。体の底から愛おしさが湧きあがってくる。

「我慢…してた?」

わらしが尋ねると、遊作は首筋に頭を埋めながら短く「あぁ」と呟いた。二人はこの世界に来てから四六時中行動を共にしてベッドも一緒だったが、遊作は今の今まで手を出してこなかった。状況が状況なだけに事に及ぶのは控えていたのだが、若いだけに耐えるのもつらかっただろう。その緊張がぷつりと切れた今、二人を縛るものはない。星空の下で男女の体が蠢く。

「んっ、幽霊……出て、こない?」
「…もう成仏した、」

二人は向かい合ったまま互いの服を脱がせ合い、遊作はわらしのTシャツを下着ごとずり上げた。闇夜に浮かぶ白い肌が遊作の心を惑わす。触れて、吸い付けば、赤い唇からは甘い声が零れ出した。やや強めに刺激を加えて、更に濃い反応を求めた。

「ゆ……さく、く……ひ、ぁ……あっ…ん……っ…」

ぴくぴくと体を震わせるわらしの無防備な喉元に舌を這わせ、手は滑らかな肌の上を際限なく行き来する。

「あ、……っん、ぁ……あっ…ふ……あん、あっ…あぁ…、…」

その声をもっと引き出したくて、遊作の手はしきりにわらしの感じる部分を探った。

「…んゃ…っ………ぁ、…あぁ…っ……あっ、あっ……」
「……、かわいい」
「あ…っ…ん、そんな…ぁ…、ふっ…やぁぁ…っ」

弄れば弄る程、わらしは艶めかしい声を上げて縋りついてくる。首に回した腕が催促しているようだった。

遊作はわらしの腰を強く引くと、既に反応している自身の上に乗せた。布越しに遊作の昂ぶりを感じ取ったわらしは頬を赤らめて目を逸らすが、逆らわずに受け入れる。そして自ら腰を揺らして遊作を煽った。強い刺激に遊作の息も上がる。

「っ…は…、」

ホテルでの口淫といい今回の誘惑といい、一体いつ覚えたのだろうか。問い質してみたくなる。
遊作は押し寄せる快感を体内に留めながら、わらしの体を離してキュロットスカートのホックに手を掛けた。下半身を覆っていた布をチェアの下に落とすと、下着を脱がせるのもそこそこに蜜壺に指を滑り込ませる。「あっ…」わらしの口からひと際高い嬌声が響いた。

「んっ……ん…、…っぁ、…あん…っ…」

逃げそうになる腰を引き、中を刺激すると同時に敏感な粒も一緒に可愛がる。するとわらしの体は面白いように跳ね、丸みを帯びたバストが遊作の眼前で揺れる。その頂にかぶりついて吸い付いた。

「ひぁっ、あっ……ぁっ、それ、…だめぇ……っ」

いやいやと首を振るも、容赦なく攻める。何度も何度も奥を穿ち、ぬるぬるになった指で外を擦ってやれば受け入れ準備は簡単に整った。
遊作は指を引き抜くと、未だ息を乱したままのわらしの足を広げさせて自身の上に導く。ゆっくりと腰を下ろさせると、遊作のそれは狭い穴の中にずぶずぶと飲み込まれていった。その光景が更に遊作を興奮させる。

「あぁぁ……っ…あ…、…」

わらしの口から歓喜に満ちた声が発せられる。離さないとばかりに抱きしめ、遊作はわらしの中で自身を擦り付けた。極上の快感が局部を通じて全身に伝わる。

「ひぁ、ん……あっ、や…っ…あん、あっ…あ…っ」
「っ、く……ん…っ」
「あっ、あっ、あ…っ…あん…、あっ…、!…」
「―――っ」

熱い。わらしの花弁に包まれたそこが、吐息のかかる唇が。下から突き上げられた細腰は跳ねてどこかに行ってしまいそうだが、両手で押さえつけて引き寄せる。どこにも行かせない。

「んぁ……っ……いぃ、…ゆー…さくっ…くん…、……っ」

わらしの口から遊作の名が発せられる度に、独り善がりではない愛情のこもったセックスを意識させられる。愛し、愛され。遊作が求めるように、わらしもまた与えられるものを享受していた。
二人だからこんなに気持ちよくなれる。一人では決して届かない領域。唯一無二の相手だからこそ。

「っあ、……は…んっ…あっ、ぁ…っ……あ……あっ……あ……、っ」
「…ん……っ…」

わらしの中が軽く締まった瞬間、遊作はその体を強引に引き離した。限界を迎え、遊作の上で軽く浮いた態勢になったわらしの腹の上に精液を飛び散らせる。

「く……はっ…」

声を絞り出すようにして最後の一滴まで出し終えた遊作は、わらしの肩に頭を乗せて息を整えていた。初回がもたないのはいつものことである。けれどわらしには、それよりも不思議に思うことがあった。


「……遊作くん、何で…?」

身を寄せ合ったわらしは、やや戸惑った声で聞いた。何故。はっきりと言葉にしなくても、遊作にはその言葉の意味がわかった。
軽く呼吸を正すと鞄からタオルを取り出し、自身の精液で濡れたわらしの腹部を拭う。手を動かしながら、わらしの目を見ないまま答えた。

「…ここだと、すぐにシャワー浴びれないだろ」
「あ…、それ、で?」
「…理由は他にもある。中に出して平気かどうかもわからなかった」

遊作が中出しをしなかった理由はわらしの体を気遣ってのことだった。確かに、シャワーのない場所で中に出したとなるとその処理に困る。さらには時間間隔の狂うこの世界に来てからわらしが避妊薬をどう扱っているのか、遊作にはわからなかった。
わらしは遊作の心配事を理解すると、優しい口調で頬を撫でた。

「その…、避妊に関しては大丈夫だよ。ちゃんと続けてるから」

女性用避妊薬は毎日同じ時間に服用し続ける必要がある。服用してからまだ間もないわらしは、飲み忘れを防止する為にスマホのアラームを設定していた。現実世界からこの世界に飛ばされて、昼間だったり夜だったりと時間が入れ替わる中でそれでもスマホの時計機能だけはきちんと働いていたので、体内時計を狂わせることなく服用を続けてきた。そうでなければ遊作に避妊を求めたはずだ。

「…そうか」

わらしの言葉を聞いて、遊作はどことなく安心した様子だった。思わず生で挿入してしまったが、後からまずいと気付いて外に出した。しかし外に出したからと言って避妊になるとは言えない。確認を怠ったことを後悔していたのだ。

「……心配事は無くなった?」

改めてわらしが遊作の首に腕を回すと、それに応えるようにして口付けた。優しいキスの応酬から、次第に欲深い侵略へと変わる。舌を絡ませながら互いの唾液を交換し、息継ぎさえままならぬ状態でまさぐり合う。肌に触れ、吸い付き、その先を求めれば。遊作の体に再び熱が灯るのもあっという間だった。

「…、こっちに」

わらしの体をチェアに押し付け、仰向けに寝かせる。中途半端だった衣服を剥ぎ取ると、わらしの瞳には遊作の向こうに流れ星が映った。満天の星空の下にさらけ出された体は遊作を求めて乞う。

「…きて、」

短い声と同時にわらしは目を細めた。上に乗った遊作が両足を割って熱を宛がう。勃ちきった肉棒を差し込めば、十分に慣れた入口は抵抗もなく受け入れた。先程よりもさらに奥へ奥へ。ぴったりと合わさった体を抱きしめて深い息を吐く。

「…気持ちいい」
「ぁっ……、わたし、も……」

そのまま二人は動かないで互いの熱を感じていた。誰よりも深い場所で繋がっている。わらしの中が遊作の形に合わせて蠢き、隙間なく包み込む。こんなに相性が良いのにすぐに終わらせしまうのはもったいない。できればずっとこのまま、遊作はわらしの中に収めておきたかった。
けれど先に息を乱したのはわらしの方だった。先程から遊作によって中は満たされているが、先に熱を散らした遊作と違って快感が与えられるのを待っている。こうしてただくっついているのも良いが、それでは足りないとばかりに腰が揺れ出した。

「遊作くん……お願い…」

熱のこもった瞳で見つめられ、遊作は思わず口付けを一つ。重ねたまま律動を開始した。わらしの腕が首に回る。

「あ…っ………あっ、ぁん………あぁ……っ」

遊作の耳元で甘い声が響いた。最初は緩やかに、抽挿をするのではなく中に自身を擦り付けて刺激を与える。焦らすようにじっくりと。腰を大きく揺らしても抜き差しはしないまま、全体を使ってグリグリと中を穿った。

「んぁぁ……っ……ん…、っ………はぁぁ…………あっ……あ…っ……」

甘えるような声と裏腹に、手はしきりに頭を撫でて催促する。「や、ぁっ………焦らさないで……もっと……」わらしの内部が蠢いて遊作を誘惑した。

「っ、は………ん……っ…」

キツい締め付けに遊作の額に汗が滲む。これ以上引き延ばしても自身がつらいので、ゆっくりと腰を打ち付ける。ようやく訪れた刺激に、わらしの口からは絶え間なく矯声が零れ落ちた。

「んっ、あっ…あっ、…あっ、ぁ…あん、…あ…っ……」

上体を起こし、前のめりになりながら見下ろすようにして中を穿つ。潤滑油に溢れた柔らかい肉は雄の抽挿を喜んで受け入れ、繰り返される刺激に中が締まる。続けば続くほど互いに離れられなくなった。

「あっ…あっ……あ…っ…、あん、……ぁ…っ……」

遊作は、目を瞑って快感に堪えるわらしの手を取って繋いだ。腰を打ち付けながら腕を寄せれば、豊かなバストは自然と寄せられ官能的に揺れる。熟れた果実は欲が高まっている証拠。時折開かれる瞳に見つめらると、興奮は更に強く。突き上げながら、ぐるりと円を描いてみせた。すべてが愛おしい。

「ひぁっ…!……ぅ、…んん……ぁっ……あぅぅ…ん…っ……」
「、……いま、すごい、締まったな……」
「あ…っ……あん、…あ、…だ……ってぇ……んっ…あっ、あっ…あっ……」

わらしは不意打ちに弱い。少しリズムを変えてやるだけで面白い程の反応を見せる。

「んん……んっ…あ…、っ…あっ…あんっ…あん…!…」

小刻みに浅く何度も擦り付ける。こうしていれば遊作もすぐにはイカない。けれど時折深く挿入すれば、それが契機となって誘われる。もっと奥に潜り込みたい。まだイキたくない。

「あぁっ…あん、…あん…っ…あん、…あっ…あっ…、…」

再びぴったり体を寄せてきた遊作の背に腕を回し、乳房を弄られながらわらしはうっすらと瞼を上げた。荒い息遣いが聞こえる耳元とは対照的に、視界には煌めく星空が映る。一つ、また一つ流れ星が流れていく。
流星群に見下ろされながら、わらしはこの先一生体験できないような経験を噛みしめ心躍らせていた。

(わたし…、いま、遊作くんに抱かれてる…、こんな、星空の下で……)

「あっ、あっ……あん、ん……っ…ゃ、…あっ…あ…っ」

(……っ、すごい、感じちゃう…っ…)


ピストンが激しくなった。チェアがギシギシと音を立てる。
遊作の昂ぶりを感じ取ったわらしがさらに強く抱き着き、その時が来るのを待つ。

「っ、中に出して、いいか…」
「ん…っ…!」

遊作はわらしの額に自身の額を押し付けると、熟れた唇に吸い付きながら律動を早めた。ぱちゅん、ぱちゅんと水音がしきりに鳴り、ただ出し入れするだけで勢い良く滑る。悲鳴にも似た嬌声が耳元で発せられる。きゅきゅっと締め付ける膣はその先を促して。

限界だ。

「、っイ、ク…、!」

わらしが昇り詰める少し手前のところで、精を放った。





はぁ、はぁと荒い息遣いが聞こえる。先程よりも激しい。
わらしが汗をかいている背中をいたわるように擦ると、遊作の腰はぶるりと震えた。出し足りなかったらしい。

「……ぜんぶ、出た?」

聞くと、短いキスの後に「あぁ」と返される。わらしの中が温かいもので満たされている。

遊作はぐっと体を起こすと、それまでのしかかっていたわらしの体を見下ろして言った。

「……背中、痛くないか?」
「…いまさらだよ」

クスクス、とわらしが笑う

「でも、平気。ありがとう」
「…………」

笑顔のわらしとは対照的に、遊作は衝動のあまり周りが見えていなかったことを恥じた。木製のビーチチェアは丈夫で、二人が乗っても問題ないがそれなりに硬い。きっとわらしの背中は赤くなっているだろう。
体を離すと、わらしの中から遊作の出した精液が流れ出た。ゆっくりとしたスピードでトクトクと零れるのがもどかしい。自分がしたこととはいえ、このままにしておくのは忍びなかった遊作は未だ白い液が伝う蜜壺に指を突っ込んで掻き出した。

「あっ…、なにする、の…、 ん…っ」
「処理をするだけだ。このままにはしておけないだろ」
「んん…っ……わか、…たけど…もっと、ゆっくり…、…」

軽く指を抜き差ししているだけなのに、わらしは息の詰まった声で返してくる。それを見ていた遊作がふと思い至ってわらしのイイところを探ってみると、途端に「ひぁっ…!」と喘いで腰を揺らした。遊作の口元に笑みが浮かぶ。

「そういえば、まだイッてなかったな…」
「んぁ…っ…や、ゆ、…さくくん……! やめ…っ」
「すぐに指で気持ちよくしてやる」
「まって、それはいぃ……あっ、…いい…からぁ…!」

わらしの抵抗も虚しく、遊作は指の動きを速めた。Gスポットを攻めるだけでなく、親指で秘豆を潰しながらわらしが感じる場所を擦り付ける。ぬるぬるに濡れた花弁は滑りが良く、円を描くように擦ってやればきゅっと膣を締める。もはや掻き出しているのか押し込んでいるのかわからなくなった。
手持ち無沙汰な左手で物欲しそうにしている果実の先端をつまんでやれば、わらしは目尻から涙を零しながらイッた。

「だめ……だめ、だ……め…ぇぇぇ…っ……、!」

びくびくと全身を揺らした後、ぱたりと力が抜けて放心する。糸が切れた人形のようだ。わらしがイクのを見ていた遊作は、「あと少しだったんだな」と妙に残念がっていたが、絶頂を迎え頭に靄がかかった状態のわらしにはあずかり知らないものである。
タオルで残りの飛沫を処理されるのもそのままに、ぼんやりと夜空を見上げていた。月が、赤い。

「………あか、い…?」

フラフラな状態にも関わらず上体を起こすと、遊作もつられて空を見た。そこには先程まで確かに白かった月が、端からじわじわと赤色に染まっていく様子が見えた。

「あれは…」
「あの子が言ってた赤い月って…あれのこと?」

わらしが呟けば、遊作もさっきまでの蕩けた顔とは打って変わって真面目な表情になり、手早く身支度を整えた。下着に足を通し服を着る。

「あの赤い月が出ている間にプールに行く必要がある。……平気か?」

わらしが着替えるのを手伝いながら尋ねる。わらしはゆったりとした動きでブラを身に付けながら、「大丈夫」と答えた。してしまった後だが、動けない訳ではない。

二人が準備をしている間に月は完全に赤く染まり、辺りは今まで以上に眩しくなった。どこもかしこも赤く見える。
プールの壁に目をやれば、昼間は散々本に夢中だったオスカーの影が顔を上げて夜空を見ていた。あの赤い月を待っていたのだろうか。
遊作は若干足元をふらつかせるわらしを連れて、オスカーに話しかけた。

「お前が言っていたのは、これのことか」
『……そうだよ。僕はこの時を待っていたんだ。これを持って、プールに行って』

足元に転がる眼球を指し、オスカーは二人を見据える。

「眼球を嵌めたら何が起こる」
『……君たちが知りたいことに辿り着く』
「知りたいこと?」
『すべては、そこにある』
「…………」

オスカーはそれっきり言葉を発しなくなった。
遊作はオスカーの言葉に従って眼球を拾い上げると、わらしを連れてプールへの扉を潜った。中は既に真っ暗で赤い月の光だけが天窓から注ぎ込んでいる。異様な光景だ。
プールの底を見れば、水がなくなったことでそこに描かれた魚の姿がくっきりと映し出されていた。巨大な魚の絵は長い尻尾と不気味な牙を持ち、到底普通の魚には見えない。深海魚のようである。その目の部分だけが盛り上がっていて、真ん中に何かが嵌っていたような穴があった。
二人はプールサイドから降りると、そこに手にしたばかりの眼球を嵌め込む。途端、魚の目は赤い光を吸収して一点に映し出した。プールサイドの壁に即席のスクリーンができあがる。

「なに、これ……」
「どこかの建物か?」

スクリーンに映し出された映像を見て声を上げれば、いつの間にかやってきたオスカーが言った。

『教えてあげるよ…あの赤い石のこと……』
「! 何だって?」
『僕は知ってる。あの本に書いてあったから…』
「あの本? 本って、まさか…」

わらしの脳裏にある単語が浮かんだ瞬間、二人の姿はスクリーンに吸い込まれるようにして消えていった。





カタカタとタイプライターを打つ音が聞こえる。周囲は明るく、空調も効いている。通路の一角だろうか。近代的な建物の中らしい。少し先に見えるカウンターに座っているオフィス服を着た女性は、前を向いて必死に何かを打ち込んでいる。先程から聞こえてくる音は彼女の手元からだった。

新しく飛んだ場所で周囲を見回した遊作とわらしは、思ったより普通の場所に安堵した。同時に、少し拍子抜けする部分もある。

「なんか……、普通だね。普通すぎて逆にびっくりしたかも」
「ずっと坑道とか墓場とかだったもんな」
「そうそう。古城とか、人が殺されて怖かったし…」

今まで飛んだ場所を思い出しては、もう二度と行きたくないと首を振って忘れる。平和な空間に心から感謝した。

「で、ここはどこなんだろう」

まだはっきりとは状況を掴み切れていないわらしの前で、遊作は少し先にある立て看板の文字を読んだ。

蔵書整理のため、当分の間休館します

「蔵書…休館……図書館か?」
「あ、そういえばあのオスカーって子、本がどうの、って言ってたもんね」
「この図書館にその本があるっていうのか? だが、休館だと中に入るのは…」

ちらりと前を見れば、受付カウンターでは女性が陣取っている。部外者である遊作とわらしを通してくれるはずがない。ちなみに二人の後ろには扉があったが、鍵が掛かっているのか開かなかった。

「まぁ、話だけでも聞いてみようよ」

わらしに促されて二人は受付カウンターまで近付いた。すると二人の姿を認めた女性が、手を止めて振り返る。

「ちょっとあなたたち。掲示板を見なかったの? 今日は休館よ」
「あ、はい……でも、」
「職員以外は立入禁止です。早く帰ってください」
「えっと…」
「お引き取りください」
「…………」

取り付く島もなかった。「全くもう、午後までに終わらせろって言われてるのに…」と愚痴をこぼしている。
二人は一旦引き下がり、看板型の掲示板のところまで戻って話し合った。

「どうする? 多分この先に私たちが探している本があると思うけど、あの人がいる限り通してもらえないよ…」
「かと言って下がることもできない。何とかして突破するしかないが」
「時間が関係してる、ってことはないかな」
「どうかな。受付がいなくなる時があるとすれば、職員が帰宅する時間だ。その時には俺たちも建物から追い出されるのがオチだろう」
「んー…それじゃ、どうしたらいい?」
「そうだな…、職員がいても見つからなければいい」
「?」
「静かに後をついて来るんだ」

遊作はそう言うと、静かにその場にしゃがんだ。わらしも同じように膝を折り、遊作の後に続く。二人はその態勢のままそろりそろりとカウンターまでの距離を詰め、受付から死角になる位置まできた。二人から見て、女性は通路を監視するように横を向いていた。そしてカウンターがあるのは女性の正面だけだが、横には大きな観葉植物があって隠れられるようになっていたのだ。

(こ、これ本当に大丈夫? 見つからないかな?)
(あの事務員は仕事が詰まっていて忙しい。集中しているから大丈夫だ)

その言葉の通り、女性は二人が死角を突いてカウンターの前を通り過ぎても気付かずに見逃してしまった。すぐ先の角を曲がって、事務員から見えない場所で立ち上がる。二人はうまくいった、と顔を見合わせた。

「正直、こんな簡単に上手くいくとは思わなかったけど…」
「運が良かったというところだな」
「まぁ、何でもいいよ。先に進めるなら」

わらしは遊作の手を引いて通路の先にある扉の前に立った。横のプレートには書庫と書いてある。

「…本はここにあるんだね」

きゅっと繋いだ手を握れば、優しく握り返された。ちらりと顔色を窺えば、遊作は自信に満ちた表情をしていた。不安を抱いているわらしの気持ちを感じ取って、励ましてくれているのかもしれない。

「わらしが考えていることはわかる。探している本が、やばいものじゃないかと思ってるんだろ」
「……、魔導書なんじゃないかな、って、ね。ジュノンに言わせてみれば、ラメイソンにない魔導書は魔導書じゃないってことみたいだけど…」
「もしそれが本当に、カードの精霊に関する力が宿っている代物だとしても、何とかなる」
「…そう、かな?」
「あぁ。今まで、何とかならなかったことはないだろ」
「……うん」

二人がこの世界で今まで歩んできた道のりを思い出し、わらしも強く頷いた。多少危険な目には遭ってきたけれど、その度に二人で乗り越えてきた。この先もきっと乗り越えられるだろう。二人ならきっと。

わらしは改めて目の前の扉を見据えると、そのドアノブに手を掛けた。


>>SUMMER VACATION!−14

戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -