「どうして言ってくれなかったんだい?」
「……何がでしょうか」
諒子の私室に山積していた品物の数々は、『Merry Christmas!』と書かれたカードがともに発見されたことから、クリスマスプレゼントであることは明瞭であった。
とりあえず、部屋を埋め尽くさんばかりの物品たちをどうにかしない限りは仕事にならない。そう判断した諒子は暖炉を直接怜宮本家の自分の部屋とつなげてそこへ運び込もうとしていた。
もちろん、式神さんにお手伝いいただくのであるが。
そこへ、かなり勢いよくドアをたたく者があった。
開けてみるとそこにいたのは――もっとも、諒子本人には開ける前から気配でわかっていたのだが――ルーピン教授だった。
「何って……しばらく会えなくなることだよ……そういう時は一言言っておくものじゃないのかい?」
「……何かご不便でもあり――」
「あえて言うけど、あったよ!クリスマスとか!」
勢いのあるルーピン教授とは対照的に、諒子は覇気なく、はあ、と形式ばかりの返事をした。
「一緒にクリスマスパーティーはできなかったし、プレゼントは時期中に渡せなかったし……」
「……私はクリスチャンではありませんが」
陰陽師がクリスチャンだと言おうものなら江戸末期の隠れキリシタンもびっくりである。
「それはどうでもいいことだよ。楽しいことには便乗しないと」
「……」
騒がしいことを良しとしない諒子にとって、何が楽しいのか理解できなかった。
「ああ、そうそう。ファンクラブもあるしたくさんプレゼントをもらったみたいだけど……はい」
彼は諒子の部屋を半ば占領しつつあるものたちを見て苦笑いした。
そして手のひらよりも少し大きいくらいの箱を取り出し、諒子に差し出した。
「もちろん、お返し、待ってるからね」
その箱を諒子に渡し、最後に諒子の頭を一撫でし、ルーピン教授は満足したような表情で帰っていった。
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