会議が終わり、“陰陽頭執務室”に戻った諒子が最初に始めたことは、パソコンを起動させることだった。

そして現在、日本中の県庁やら府庁やらにメールを送っている。

黒い着物の陰陽師がブラインドタッチ、と言うのはかなり滑稽だ
しかし、ここ『陰陽寮』も隠れてはいるが、組織化された日本の“省”なのだから仕方がない。

通称『陰陽寮』――正式名称を『陰陽師総管理省』。

一般人に知れることはないが、“名目上”は立派な日本の行政機関である。
そして、そのトップに立つのが大臣である『陰陽師総管理省大臣』――通称『陰陽頭』の、怜宮諒子である。

この『陰陽寮』、他の省と比べてもかなり独立性が高い。さらに、権力も他とは一線を画すほどである。
『陰陽寮』に属した陰陽師以外の者に、基本的に口出しはできない。

先ほどの会議に混じっていたスーツの一部は内閣府でも上の方に所属するものであるが、それはただ傍聴しているのみである。


そもそも、一般市民にとっては、『陰陽寮』は明治2年には廃止されたはずである。
しかし、こうして現在も存在している。

それは、廃止が表向きだったことに他ならない。

ちなみに、政治家の中でもその存在は極秘であり、総理大臣とその側近くらいしか存在を知らされていない。

余談だが、総理大臣に選出されるとこれを知ってびっくりする者が多い。
中にはびっくりし過ぎて『こんなもん廃止だ』などとのたまった方もいたが、予算を使うどころか自分たちで稼いで国の歳入に貢献している事実を突きつけたらぐうの音も出ず、だった。



現代的な科学の進んだ世界で生きる一般市民たちが知らぬ間に、陰陽師たちはひっそりと、しかし、いなくなったら困るほど重要な立場で活躍しているのである。


昔も今も、悪しきモノの存在は厄介で、無くならない。
以前までの『陰陽寮』での仕事は政治を行う上での吉兆を、術を用いて占うことだったが、現在では完全に『お祓い』と『日本中の陰陽師のまとめ役』、そして『他国魔法省に関する外交』にシフトチェンジしている。

中でも『お祓い』が主になる。日本中から寄せられるお祓いの依頼やら、危険な場所――物理的にではなく霊的に――の情報やらを元に、その仕事に見合った陰陽師を派遣する。

そしてその陰陽師が仕事をする。
大概は日本各地に駐在する、または拠点がそこにある陰陽師に仕事をしてもらう。

しかし、場合によっては最高峰の実力者である陰陽頭が動かなくてはならない仕事もあり、その時は諒子がそこまで行かなくてはならない。

斯くして、毎年恒例な忙しい年末は陰陽頭のメールで幕開けとなる。



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