“居心地が悪い”
一言でこの場所を表すならば怜宮諒子にとって、斯くの如くであった。
普段自分の張った結界が行き届き、静寂に包まれた快適な空間に暮らしている彼女にとって、色々な魔法が無秩序に錯綜しているホグワーツは居心地が悪かったのである。
しかも、西洋魔術的なものに囲まれた中で、漆黒の着物。
更にいえば、13歳ながらに教師席。
所謂“浮いている”という状況であった。
現在、諒子がいるのはイギリス。
もっと詳細にすればホグワーツ魔法魔術学校の大広間。
時は新入生を迎える日、これから入学式が始まるという頃である。
不本意ながらも今年度から東洋魔術の教鞭を執るのであるからして、諒子は新任教師なのだ。
そして、現在進行形で彼女を不愉快にしているのが、隣からの警戒心剥き出しな視線であった。
場違いなのは、彼女自身が自覚している。
しかしながら、教師としてここにいる以上、斯程までに警戒される筋合いなどないのである。
書物を片手に気を紛らわせているとはいえ、気に障るのは当然のことだった。
いい加減、その人間の意識でも操作して――もちろん、諒子ほどの実力があれば気づかれないうちにそれが可能である――自分を現在の意識対象から外してやろうか、と思った頃、入学式が始まった。
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