「梗子に出会えてよかったよ」
普通なら、え、とか反応するものなのに、梗子は完全なる無表情だった。
本当に、梗子はなんていうか……珍しい人間だ。
そこがいいのだけど。
「手紙、書くよ。……返事をくれないと寂しくて死んでしまうから、なるべく早く返してくれると嬉しいよ」
「……内容に依ります。ご依頼でしたら他の仕事との兼ね合いにより――」
「あははは!……梗子らしい切り返しだ」
多分本人には切り返しだとか、そう言うつもりはないだろうけれど。
くだらない話をしていたらいつの間にか馬車の見える位置まで来ていた。
「梗子」
ありがとう、またね、そう言って一気に馬車に乗り込んだ。
これ以上何かしてしまうとここを離れられなくなってしまいそうだった。
馬車に乗る前に、“お元気で”、そう聞こえたのは多分、空耳じゃないと思う。
また会おう、梗子。
ありそうで怖いけれど……次に会った時、誰だっけ、とか言わないでね。
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