アウトサイダー・ロマンス

愛情というものをどろどろに煮詰めるとどんな感情になるのだろう。遠い世界の憧れの存在からキングとクイーンとなりやがては互いに己の恋心に気が付きながらもわたし達はいろいろな言い訳をしてついにここまで来てしまった。
明確な告白すらしていないのに早まって同棲までしている。キスはとびきり最低なやつが二回。それ以上の侵入は指一本許していない。
そんなわたしの中への侵入を許されない王の白くて長い指がシャンパンで満たされたグラスの足をなぞる。ふと視線が奪われた。

「おい、相原」

しかしそこで名前を呼ばれてはっと気が付き顔を上げる。目の前にはやや呆れた顔の齋藤くん。頼りないほど小さくて、くたびれた学ランに身を包んでいたはずの彼も今や堂々と値の張るソファに腰掛けてオーダーメイドのスーツに身を包んでいた。

「話聞いてるか」

そんな彼のからかいを含んだ声音。ぱっと顔を伏せて誤魔化した。齋藤くんの顔もキングの顔も見れやしない。
聞いてるけど、なに?小さな声でそう返事をして提示された資料を必死に目で追うふりをした。隣からはくくくと押し殺した笑い声。マコト、そのスニーカー踏んでやろうか。

「もう、話ついたでしょ!その依頼受ける、マコトは調査。人員はうちから出す。いいよね」

この空気を変えたくてそう話を締めくくってふかふかの背もたれによりかかり一息ついた。手元にある資料に視線を落とした。脱法ハーブによる連続殺傷事件。出処不明の脱法ハーブを吸った人たちがトリップして事故ったり喧嘩したり自傷する事件がこの辺で相次いでいた。
それで齋藤くん経由で羽沢組からGボーイズとマコトでこの事件を解決してくれと依頼されたのだ。
答えはもちろんイエス。ヤクザ絡みの仕事の報酬は抜群にいい。借りを作っておくのも重要。
齋藤くんはわたしの言葉にはいはいと笑いながら返事をしてアルマンドブリニャックの瓶を取りわたしのグラスに注ぐ。
契約成立の乾杯を促された。ちらりとキングをみるとめんどくさいという表情を浮かべながらグラスを手に取っていた。わたしもそれに倣ってグラスを手に取った。
その軽い乾杯のあと、小さくため息をつくと鞄からアークロイヤルを取り出して咥えた。バニラ味のフィルター。あまい。


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