小さなトウヒの樹を切り倒して、水浴び小屋の傍まで運んできた。そして倒れないようその樹を固定すると、秋のうちに水浴び小屋に運んでおいた木箱の蓋を開けて中を覗き込む。
そこにはお気に入りのレースにリボン、フローレンと拾い集めた綺麗な貝殻と真珠の首飾り、形が気に入った小さな瓶やかわいい置物などが雑多に詰め込まれていた。
そして小声で口ずさみながら、繊細なレースを1本手に取り青々としたトウヒの枝を飾る。次はリボン、それから首飾り、小さな置物を順番に飾り立てた。
さて、樹の1番てっぺんにはなにを飾ろうか。そう迷った挙句に金色のリボンを結んだ。太陽みたいで、いい色じゃない?自分自身にそう問いかけてみたりした。

「あら、レディ」

そうして出来上がったツリーを満足して眺めていると、後ろから声をかけられ振り向く。冬の同居人、トゥーティッキだ。薪を工面してきた帰りなのか、片手に斧を携えていた。
彼女はわたしを見つめたあと、すぐに横のツリーに気がついて明るい声を上げる。

「クリスマスツリーを用意したのね」
「うん、冬至も終わったし」

そう言ってちらりと少し前まで氷姫の雪の馬が立っていた場所を見た。
冬にしか現れない生き物たちとは友だちになれる気がしないし、太陽もあまり顔を出してくれないし、冬はあまり好きじゃない。
だから生活にほんの少しの煌めきが欲しくて、今年はクリスマスツリーなんて準備してみたのだ。
うん、綺麗に飾られたお気に入りのものをみて少しだけ心が晴れた。

「もうクリスマスなのね。少しずつ太陽も戻ってきたし、春はもうすぐ。さあレディ。水浴び小屋に戻って、お昼にしましょう」

うん、と頷いて彼女のあとについて水浴び小屋に戻った。そしてトゥーティッキがスープ皿にあたたかなスープをよそる間にわたしはジャムの瓶を開ける。コパッと心地よい音とともに甘いラズベリーの香り。スプーンでたっぷりとそれを掬うと小さな皿に移して、スプーンを舐めた。うん、甘くておいしい。

「とんがりねずみさん、ごはんだよ」

甘いジャムを堪能すると、そう言いお皿を適当なところに置いた。目に見えないとんがりねずみさんのためのご飯だ。
彼または彼女は、冬の水浴び小屋に暮らす目に見えない生き物だ。ニンニみたいに後天的なのか、はたまた先天性なのかは知らない。時折仕事を手伝ってくれるので、たぶん優しい生き物なんだろう。
あまり詮索する気もないので、わたしはジャムのお皿からさっさと目を離してスープ皿を受け取る。
冷えたからだに染みる暖かな魚のスープはとても美味しかった。
冬の数少ない楽しみと言ったら、おいしいごはんくらいだ。ああそうだ。そこで思いつきを口にした。

「トゥーティッキ、わたし今夜はとびきりのご馳走を作るわ」
「そうなの、楽しみだわ」

酢漬けの野菜をふんだんに使ったサラダ、魚のスープと箱料理、丸焼きのチキン。アイシングクッキー、デコレーションケーキも欲しいな。
たくさんのご馳走をつくれば、どこからかお客さんも集まってくるものだし。作りすぎるくらいでいいのだ。
凍てつく世界の真ん中で、そんな夢想をしてこころが少し温まった気がした。

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