船底に塗るタールにムーミン谷にはない食材、そういえば先日棚を作ったら釘のストックもなくなってしまった。そうあれこれと足りないものが出てきたので久しぶりにおさびし山を越えた先にある街まで買い物に出かけることにした。
キャンプ道具に黒パンや地下室の片隅に積まれていた缶詰やらもリュックの中にパンパンに詰め込む。これでよし。そんな準備をした翌日の早朝、わたしは家を出た。
そして1週間ほどで帰ります。と貼り紙を家のドアに貼る。きっとムーミンたちは寂しがるだろう。お土産もいっぱい買ってこようと思った。
そんなことを考えながら朝もやの中、まだ見慣れている道を進んでいるときだ。誰よりも濃い緑の服を着た彼にばったりと出会った。

「出かけるのかい、大荷物で」

釣り道具を持った彼、スナフキンだ。スナフキンはちらりとわたしの大荷物を見てそう言う。そうよ、と頷いた。おさびし山を超えて隣町に。
すると彼はすこし思案して、5分だけ待っててと言った。

「いいけど、どうしたの?」
「ぼくも少し遠出がしたいと思っていたんだ。途中まで一緒に行こう」
「ほんと?ありがとう、待ってる」

正直、もうしばらくおさびし山を越えて歩いていなかったので道に多少の不安があったのだ。それを見透かしたのか、スナフキンは珍しく旅の同行を申し出てくれた。
踵を返してあのテントの方へと向かっていくスナフキンを見送るとわたしは一旦荷物を下ろし、しゃがみこんでブーツの紐を解きまたきつく縛り直した。そういえば靴ももうボロボロだ。新しい靴が欲しい。新品の靴でまたムーミン谷の土を踏むのはどんなに気持ちいいだろうかと想像した。
またそんなことを夢想しているうちにスナフキンがまた戻ってきて、お待たせ、それじゃあ行こうかと言う。わたしは立ち上がって再びリュックを背負い、1歩を踏み出のだった。



スナフキンの火起こしは本当に早かった。その火で適当な缶詰を温めてつまみ、黒パンを3切れずつ食べた。そしてわたしが焚き火のすぐ脇に流れる川で食器を洗っている間に彼は鍋でコーヒーを沸かした。

「きみも飲む?」
「うん、少しだけ」

コーヒーのいい香りを胸いっぱいに吸い込みながらキャンプ用のホーローのマグカップを受け取る。彼も自分の分を注いで一息つく。
そして私も焚き火の傍に座ると話を切り出した。

「あなたは隣町まで来ないでしょう?どこまで来るの?」
「うん、そうだな。おさびし山を越えたところまでかな。そうしたらきみは迷わず街まで行けるだろ」

そこまで来てくれるんだ、ありがたい。
となると一緒にいるのはあと1日足らずと言ったところだろうか。
それにしても隣町へはおさびし山のいちばん高い峰を越えなくても行けるので、前に彗星が降ってきたときほど大変な思いはしていないのが幸いだった。
それからはぼんやりしながら言葉数少なめにコーヒーを飲み切るとマグをさっと洗って大きな欠伸をする。今日は歩き疲れた。

「明日も早いし、もう寝ようかな」
「うん、そうしようか」

そしてわたしたちはテントの中の寝袋に背中合わせで潜り込むと、夢の世界へと落ちていった。


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