ムーミンたちが目覚め、屋敷の前の橋の上でスナフキンが今年1番最初のハーモニカを吹いてからもう幾日も経つ春の日だというのに今日はとんと冷え込んだ日だった。
当然外で遊ぶのをやめムーミン屋敷でトランプ遊びに興じていたわたし達だったが負けの続いたスニフがとうとうトランプを投げ捨て話題転換に試みた。
「もうやだやだこんなの!別の話をしようよ」
「何話そうって言うのよ」
そんなスニフにミイがそう言うとからはしばらく考え込み、そしてに言う。
「レディの故郷の話を聞こうよ、ぼくたち全然知らないだろ」
「ええ・・・」
突然のことにたじろいでトランプを置き辺りを見回した。
ムーミンとフローレンの丸い目がわたしを期待に満ちた目て見つめてきていて、ミイもそれならわたしも聞きたいわとテーブルのわたしに1番近い位置に座り直す。
ソファでムーミンパパから借りた本を読んでいたスナフキンすらも顔を上げてこちらを見ていた。
注目されるのには慣れていない。
恥ずかしくてどうしようかと俯いてしまうとムーミンママが食卓の方から顔を覗かせた。
「さあさ、みんな暖かい紅茶が入ったわよ。お茶にしましょう」
これは幸い、とわたしは1番に返事をして食卓に逃げ込んだ。



「それで、レディ。聞かせてよ」
わたしたちは全員食卓について紅茶を飲みながらママの手作りクッキーを摘んできたがムーミンが話の続きを急かした。
「でもムーミン、わたしスナフキンのように話がうまくないわ」
「そんなことないわよ、わたしレディと話すのだいすき!」
フローレンが花のような笑顔でそう言ってくれた。その様子に不思議そうな顔をしたムーミンパパに、ミイが答える。
「何の話かね」
「レディが故郷の話をしてくれるのよ」
観念しよう、逃げられない。わたしは紅茶を1口飲み込むと口を開いた。
「わたしの故郷はここからずっとずっと東に向かって進んだ陸の果てからさらに海を渡ったところにある、この星で1番最初に朝が来る島よ」
「怖いところなんだろ?レディはそこに住むのをやめてここに来たんだから」
「そんなことないわ、いいところよ」
そして怯えるスニフに心からそう答えた。すると彼はめをぱちくりとさせて驚いた風だ。
「じゃあどうしてレディは島を出てムーミン谷へ来たの?」
「黙って聞いてなさい、スニフ」
そんなスニフをミイがぴしゃりと黙らせた。小さくとも強いのだ。
「新しい故郷を見つけたかったの、あの島はだいすき。でもあそこで暮らしていくべきではないと思ったの。そんなときにムーミン谷の話を聞いたから」
そしてわたしはそのまま着の身着のまま飛び出してはるばるとここまでやってきた。
するとそこまで話を聞いていたママが心配そうに尋ねる。
「その島のご飯はおいしいの?」
「まあね、ちょっとしょっぱいのがと多いけどとてもおいしかった。今度材料が手に入ったら作ってみようかな」
「まあ、ぜひわたしにも教えて頂戴」
ムーミンママがほっとしたようににこにことして言った。
「1番最初に朝が来る島かあ」
ムーミンがあの島に思いを馳せるように遠くを見た。みんな黙って思い思いにあの島のことを考えているようだった。春、あの島で美しい桜の花が満開だろう。
スノークの飛行船がもっともっと長い距離を飛べるようになったら、ここにいるみんなを連れて故郷にお花見に行きたいな。
みんながあの島について考える中、わたしはそう思うのだった。

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