それが何とは気付かない | ナノ
全ての女の子が自分に振り向くはずと言うようなナルシズムは生憎持ち合わせていない。
ただ鬼灯がなかなか丸くならないことが気に食わなくなっていた。
あれだけ話しかけて携帯のアドレスも無理やり奪って、それなのに意識もしないし口数も増えない。
今までの行為がただの嫌がらせにしか写らないのは少ししょうがないようにも思える。いつも白澤が女の子に向けている言葉ではないのだから。粗雑な言葉ばかりの応酬で相手を意識している、ということを読みとれだなんて到底無理なことだ。恋愛に疎い鬼灯相手ならなおさら。
いや待て。と白澤は自分の思考を止める。
そもそも鬼灯が好きなわけではない。態度が変わらないから気に食わないだけであって、振り向かせたいとかそういうわけではない。根底を探れば、鬼灯は嫌いの部類に入るわけで、仲よくなろうだなんて──。
「あー、まさかね」
と、白澤は自室で一人ごちた。
勉強に力が入らなくなったところで、携帯の電話帳を漁りは行を見やる。
一番下の行に『鬼灯』の名前。
今頃彼女も勉強をしているだろう。何せ学年トップなのだから。いつも二位に甘んじているが今回は負かしてやりたいという感情が少しばかりこみ上げてきた。
かちりとボタンを押すと携帯からは呼び出し音が鳴り始める。
暫くして無視かな、と思えば通話中の三文字が携帯のディスプレイに浮かび上がった。
「こんばんは」
『……』
通話を切ろうとすることなどお見通しだ。慌てて切らないでよ! と言えば不愉快です、と言葉通り不愉快そうな声が電話から響いた。
「僕も不愉快だよ」
ならば切りましょう、という冷徹な彼女の声が飛んでくるがからかうように白澤は笑って、すかさず言葉を紡いだ。
君がなかなか振り向いてくれないから──そう言えば電話は切られてしまった。
「相当嫌われてるな……。前からか」
負けず嫌いというわけではなかった気がするが、きっとそれは相手が彼女だからだろう。
彼女には負けたくない。どちらかと言えば勝って、優位に立ちたい。
恋ではない。好きでもない。仲良くなろうとも思わない。
けれど、振り向かせたい。
最早意地のようだった。それが何と気づけぬまま、お互いの夜は更けて行く──。
終
「脳内削除」の白澤視点。