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「ユウナ、木ノ葉に戻れ」
「……はい?」


そんな風に唐突に聞こえた師の声に言葉を失って、同時に眉を潜めた。

突然何を言い出すんだ、この人は。そりゃいつかは戻るつもりでいたけど、なんでこんな急に?大体私がいなくなったら誰があなたのそのだっらしない金遣いを抑えるっていうんですか。あればあるだけ、たとえなくても絞り出して借金こさえまくってまで賭け事をするあなたを今まで命がけで止めてたのは誰ですか?ん??

今思ったことがすべて顔に出ていたのか、綱手様はバツが悪そうにそっぽを向いて頬を掻いた。


「…金のことはシズネにやらせる!今までおまえがやってたことを一番近くで見てたんだ。できるな、シズネ!?」
「アヒィッ!!は、はいぃ〜!!」
「…どんまい、シズネ」


あーぁ、シズネに当たっちゃったよこの人は。ごめんねシズネ。この人の金銭管理はきっとシズネが思ってる軽く五倍はきついと思うけど、がんばれ、可愛い妹弟子よ。

半泣きになってるシズネの肩に手を乗せて憐みの視線を送っていると、途端に綱手様のきりりとした視線を感じて私も顔を引き締めた。


「ユウナ、おまえはあたしの優秀な弟子だ。この十年間であたしの持てる力のすべてを注いだ」
「はい」
「…そこでだ」
「?」
「おまえには、木ノ葉に戻って猿飛先生や里のやつらを助けてやってほしい」
「…」
「今木ノ葉は深刻な忍不足だと聞く。もともと少ない医療忍者だと尚更な。頼んだぞ、ユウナ」
「…お言葉ですが綱手様。私はまだまだ未熟です、それにまだ綱手様に教わりたいことが山ほどあります。今のこの中途半端なまま帰っても、きっと役には…」
「…はぁ。ユウナ、おまえは自分に対して厳しすぎるぞ。たしかに、忍をやるうえで貪欲に成長したいと思う気持ちは大切だ。それはおまえを、今以上に高めることだろう」
「…はい」
「だが、おまえには自信がなさすぎる。もう少し胸を張れ。大丈夫だよ、おまえはあたしの自慢の弟子だ。自信を持て、お前は強い」
「…っ」


そう言って私をなだめるように眉間にしわを寄せてにっ、と笑う綱手様。

あぁもう本当にこの人は。そんな笑顔向けられたらこれ以上ごねられないじゃん。何年一緒にいても、この人の子供みたいなところには全く慣れなかったなぁ。でも、芯はやっぱり強くて、そして、格好良い素敵な女性だ。くノ一としてはもちろん、人としても尊敬が止まらない。これじゃあいつまで経ってもかないっこないよまったく。


「……わかりました。でも、綱手様もたまには帰ってきてくださいよ?」
「…あぁ、いつか、な」
「じゃ、じゃあユウナさん、お元気で!」
「シズネ、綱手様のお守りは骨が折れるけどしっかりやるんだよ!」
「誰のお守りだって!?調子に乗るなバカ!!」
「いでっ!!」


…今手加減しなかったよこの人。バカ力なんだからちょっとぐらい加減してくださいよもう。
拳骨が落ちてじんじんと痛む頭を抱えながらも、やっぱりこの人は温かいなぁなんて思うわけで。

「それじゃあ、達者でな」そう言って私に背を向け歩き出した綱手様に、深く深く、頭を下げた。


「十年間お世話になりました!いったん、さようなら!!」


遠くなった師の背中にそう叫んで頭を上げると、返事の代わりに上がった右手。

喧嘩っ早いし賭け事命だし、何かとあれば酒だ何だって酔っぱらってるし抜けてるところも多いけど、でも、誰よりも大きくて、温かくて優しい、たったひとりの大好きな私の師。

この人の弟子になれて幸せだなぁ、なんて思いながら、晴れ渡った空を見上げた。




それは突然でした




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