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ゆっくりと目を開けると、見慣れない天井が飛び込んだ。ここどこだ?
あー、頭痛い。飲み過ぎだこれは。そういえば昨日どうしたっけ。ユウナの昇格祝いにみんなで飲みに行って、アスマと紅の酒豪コンビにしこたま飲まされて、…そのあとは?
ゆっくりと昨日の記憶をたどっていく。
「っああ!!」
思い出した。帰りの公園でユウナに酔った勢いで告白してそのあと寝ちゃったんだ。
ああ、どうしよう。やっちゃった。言うだけ言って落ちちゃったんだ。
…返事は?
いやいやそんなの今更聞けないよ恥ずかしい。この歳で酔った勢いで告白したなんて羞恥にもほどがある。どうしよう。
飛び起きて頭を抱えた。どうやって顔合わせよう…。
「おはよう、酔っ払い」
「!」
聞き慣れすぎたその声にぴくりと肩を震わせ恐る恐る顔を上げれば、お盆を手に満面の笑みで俺を見るユウナがいて。
「お、はよう」
「ずいぶんぐっすり眠ってたね、人の気も知らないで」
「ごめんなさい!!」
ベッドから飛び降りてその勢いで土下座する。プライドなんてそんなもん今の俺にはない。誠心誠意ユウナと向き合うしか俺に道はない。どんなに叱られてもぶん殴られても昨日のユウナの気持ちを考えれば甘んじて受けるしかない。
するとユウナはつかつかと歩んできて腰を下ろし、俺の前に手に持っていたお盆を置いた。
「どうせ頭痛いんでしょ。ほら、綱手様特製の二日酔いの薬。これ飲んだら一発で治るから」
「…あ、ありがとう」
ありがたくその薬を飲んで、恐る恐る昨日の帰りのことを聞いた。
つまり、俺は告白した後熟睡しちゃって、そんな俺をユウナの家まで運んでくれたと。で、ユウナは別の部屋で寝ようとしてたけど俺が手を掴んで離さないから結局同じ部屋で一晩過ごして現在に至る、と。
……恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。むしろ埋めてほしい。
「…いやもう、本当申し訳ないです…」
「でも、嬉しかったのは本当だよ」
そんなユウナの声に顔を覆っていた手をどければ、俺の前に同じように正座して優しい顔をしていた。
「カカシ」
「…はい」
「正直に言うね」
「あんたのことなんて嫌いよ!」とか言われたら俺ホントに立ち直れないよ。何年ごしの片想いだと思ってるの。もう十数年だよ。
ずっと心の中にしまい込んでいた気持ちを、いつ言葉にして伝えられるのか。シチュエーションまで練りに練ってたってのに、昨日の自分への腹立たしさとユウナへの申し訳なさがぬぐえない俺に、彼女は優しく言葉を紡ぐ。
「昨日も言ったんだけど、私はカカシをそういう目で見たことないんだ」
「…うん」
「だけど、カカシのことが大切だってことは今も昔も変わらない」
「うん」
「だから、ちょっと待っててくれないかな」
「うん?」
何が言いたいの?
それが俺の顔に出てたのか、ユウナはふーっと息を吐いて真っ直ぐ俺を見つめた。
「カカシのことは本当に大切だから、中途半端に返事したくない。じっくり考えて、自分で納得できる答えを出したいんだ」
「うん」
「だから、どれくらいかかるかわかんないけど、真剣にカカシの気持ちに向き合いたい」
「うん」
「…待っててくれる?」
なんだ、そういうことか。
やっとユウナの言葉の意味を理解した俺の身体からは一気に力が抜けた。
バカだなぁお前は。そんな不安そうな顔する必要全くないのに。もう十何年待ったんだ。今更待てないなんてありえないでしょ。
「うん、待つよ。いつでもいいから、答えが出たら教えて」
「わかった、ありがと」
お礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう、ユウナ。
ゆっくり、しっかり、答え出してね。俺はいつまででも待ってるから。
謝罪と期待