05





迂闊だった。油断していた。
数時間前の自分を表すなら、そんな言葉が一番似合うだろう。

中忍二人を連れた任務を終え里へ戻る最中、運悪く敵襲が来て見る間に拘束された。すぐに雷遁を流し拘束を解こうとすると、まるで身体中に焼き石を当てつけられるような激痛が走った。思わず崩れ落ち飛びそうな意識を何とか繋ぎ止めていると、連れていた二人が里の方面へと駆けていくのが見える。それでいい。どうか助けを呼んでくれ。そう思いながら俺は意識を手放した。

目を覚ますと広がっていたのは、冷たい石の床だった。手足には縄がかけられ身動きは取れない。身ぐるみを剥がされた自分の体を見ると、縄状の術式が刻まれている。これはたしか鬼灯城の禁固術。なるほどこれで先程の激痛に納得がいった。

たしか術名は火遁・天牢。本来は鬼灯城に収監された囚人に施される術だったはず。体内のチャクラを練ることを妨害する術。対抗するには仙術を用いた自然エネルギーを必要とするが、残念ながら俺にその力はない。解術するには属性の優位である水中に潜るか術者本人の解術しか方法はない。この状況を考えれば後者はほぼ不可能。つまりどこか多量の水があるところを探さなければいけない訳だが、あいにく拘束されており、それも叶わない。……万事休すか。

あれからどれほど経ったのか分からないが、きっと彼らは既に里に着いて事の次第を報告してくれて、綱手様も動いて下さっているに違いない。

もう、マリナの耳に入ってるかな。
昨日、いつもの如く本当にくだらない理由で喧嘩をして、捨て台詞を吐いてマリナの家を出てきてしまった。大人気なくて情けなくて会わせる顔がないと思いながら、里に帰ったらマリナを探して謝ろうと思っていたのにこのざまだ、笑わせる。

さすがにもう終わりかもしれない。
マリナと恋人になって数年。その間にこんな喧嘩は数え切れないほどしてきた。互いに忙しいことは理解しているし、疲れが溜まっていることもわかっている。だが、だからこそ互いに引っ込みがつかない部分があった。

喧嘩しても、どうせどちらかが謝って元に戻る。俺もきっとマリナも、そうなると信じて疑っていないだろう。

なら初めから喧嘩なんてしなければいい。そう思われるのもわかっているし、俺自身もそう思っている。だが歳を食うとは厄介なもので、この一線を超えればいつもの繰り返しだとわかってはいても、それをどうしても踏み越えてしまう。自分を抑えきれず、感情をさらけ出してしまう。すぐに謝れば済む話を、そうせずにマリナに謝らせて今までやってきた。

良いように言えば、俺はマリナになら素直な感情を表せられる。我慢せず、押し込まず、思ったことを言えるし行動にも移せる。なのに何度同じことを繰り返せば気が済むんだと自分自身にどれだけ呆れたか知れない。

きっとこんなガキな俺にマリナも呆れているだろうし、嫌気も差しているだろう。当然だ。俺がマリナの立場なら俺みたいな奴はとっくに見限っている。そうしないのはきっもマリナの優しさであり俺に対する同情だ。

大丈夫、あいつを手放す準備は出来ている。


「気がついたか、コピー忍者」
「!」


目覚めてからずっと耽る俺の耳に、すぐそばから声が聞こえて身を縮こめた。俺も相当焼きが回ったらしい。こんなに至近距離にいる男の気配も感じず自分の世界に入るなど、忍が聞いて呆れる。


「貴様を囮に木ノ葉を揺すった。奴らは貴様の命を助け情報を渡すか、それとも見捨てるか…。見物だな」
「…」


見上げるように睨みつける俺を鼻であしらい、男は続けた。


「じきに貴様を救出する部隊がやってくるだろうが、そんなことは問題ではない」
「…」
「木ノ葉がどう動こうが、貴様にはここで死んでもらう」
「…そう簡単には殺せないと思うがな」
「はっ、ほざけ」
「ぐ、はっ」


そう言った男はガラ空きの俺の胴に重い蹴りを食らわせた。もろに鳩尾を突かれ蹲り咳き込む俺を男は冷たい視線で見下ろす。


「ろくにチャクラも練れない分際で何が出来る。今の貴様は助けを待つことしか出来ない無力な人間、要はお荷物」
「…」
「貴様に生き残られると後々厄介だ。ここで始末するのが得策だろう」
「…それはどうかな」
「……なに?」


今の俺には時間稼ぎをするしか出来ることはないと思いそう告げると、訝しげに眉を寄せ、男は俺を再度見下ろした。


「……どういうことだ」
「お前はどうやら万事上手くいっていると思ってるようだが、それはお門違いってことだ」
「…」
「……木ノ葉の忍をなめるな」
「!?」


再び男を睨みつける俺の声に合わせるように爆発音が響いた。援軍の到着。俺をこれほどまでに安堵させてくれるその音に、自分が内心慄いていたことを知る。つくづく情けない。そして、


「!!」
「カカシを返せ」


ありがとう、マリナ。


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